Vol.113 映画監督

山下敦弘

1971年。若きジャーナリストと革命家。二人の出会いが引き起こした衝撃の事件。
OKStars Vol.113には映画監督の山下敦弘さんが登場。5月28日公開の『マイ・バック・ページ』についておうかがいしました。

川本三郎さんの原作に触れたときにはどう思いましたか?

当時の映画や音楽、漫画への知識はありましたがその時代の政治や思想への知識や興味はそんなにはなかったんです。今回自分に映画化できたのは、川本さんの原作も政治寄りではなく、視点が僕らに近かったところに共感が持てたからです。

どういう風に映画化しようと考えましたか?

最初はあの時代を描くことに特別な気持ちはなかったんですけど、あの時代を知っている方は今もたくさんいるし、そういうこともだんだんとプレッシャーになってきたので、なるべく自分たちの心情にウソをつかないようにしようと思いました。当時の時代の空気などはできるだけ再現しつつも、心情は自分たちがそう思えるものを撮ろうと思いました。

監督の生まれる前の出来事で、かつその時代を体験している人がたくさんいるということで、設定や描き方で苦心されたところ、気をつけたことは?

頭では当時のことや若者のことを理解はできるんですけど、思想的なところは僕も分からないし、当時の共産主義とかそういったものがよいとは僕自身が思っていないんです。でも、当時の一部の若者ですけど、何でゲバ棒持って頑張れたんだろうとかそういうところへの興味はあるので、そういうところは映画の中で伝えられたらなとは思いつつ、あまり思想的なことを入れるとみんな分からなくなってしまうので、そこはあえて入れないようにしました。

沢田と梅山というメインキャラクターについて、どのように描こうと考えましたか。

音楽や映画などの共通項はあっても実際には真逆なふたりが出会ってしまったことで、出会わなければこういう事件も起きなかったとは思います。ふたりの立場はジャーナリストと革命家ということで、みんなが観てどう感じるかは分かりませんけど、僕はこういう人物はどの時代にもいるんじゃないかなって思います。それこそ、僕自身の大学時代の映画作ってた仲間でも、梅山みたいなやつはいたので、若い時に出会って人生狂ってしまうじゃないですけど(笑)、そういう関係性は普通にあるんじゃないかなって思います。なので、思想とかをこの映画の中に持ち込んでしまうと、今の人には分からなくなっちゃうので、そういうものはあまり入れずに、いつの時代にもいそうなふたり、ということを意識していました。

梅山という人物は「本物」を目指した結果、みんなが振り回されてしまった、とも受け止められますが、監督は梅山というキャラクターをどう捉えていますか。

川本さんもジャーナリストになりたかったって原作で書いていて、当時の人は何かやらなきゃという心情があったとは思うんです。梅山はたまたま政治的だったというだけで、音楽やってる人にもいるだろうし、いろんなところにああいうタイプのやつはいるよな、ということは脚本の向井康介とも話していました。実際、あの時代に過ごした方に話を聞くと、こういうやついたよってよく言われました。それで脚本を書き進めるうちにこれは本物に近づきたかった人の話なんだなって思うようにはなりました。
原作を読んでいても川本さんが置かれた状況とかをみても、川本さん自身が政治的ではなかったので、心情的に信じてしまったというところでしかないんですよね。なので、沢田の一方的な片思いのように(笑)見える部分はあると思います。

妻夫木聡さんと松山ケンイチさんに期待したこと、望んだことは?

なぜ彼らがそういう事をしたのか、という根底のところ、例えばあの時代のベトナム戦争とか公害問題とか、そういうものって僕も頭でしか分からないし、脚本にもそういう部分は書いてはいないんですけど、ベースの部分として当時の気分だけは理解して欲しいなと思っていました。松山くんとは撮影前にそういったことを話す機会があって、あの時代はなんだったんだろうねとか、自分たちも分からないなりに想像しながらやっていくしかないよねって。梅山のキャラクターは松山くん自身そうですけどかなり振り切れているところがあるので(笑)、梅山の人たらしなところとか、化物とまではいかないんだけど、ちょっと妖怪みたいな人間の延長みたいなそういうキャラクターでやってもらいました。

政治的・思想的な要素をあえて入れなかったということで、何かになれなかった、そういうほろ苦い青春の終わりとかひとつの時代の終わりという風にも感じました。

最初はどんなやり方があるかなって考えたんです。それこそ挫折するひとりのジャーナリストの物語とか、大手出版社の古い体制と闘う若者とか。でも原作にもある、全く関係の無い自衛官が殺されてしまったという事実とぶち当たって、そういうものにはできないと考えました。ただ、事件自体があまりにも政治的ではないので、見方のひとつとして、ひどい言い方をすると若気の至りとかっていう部分も絡み合ってはいるとは思います。

一番こだわったところは何でしょうか。

これは結果的にですが、この作品の時代というものを引いては見ないように、なるべく正面から見ようと思いました。今までももちろん毎回真面目に撮っているんですけど、今回はじめて監督として正面から向き合った作品になりました。だからこそ時間もかかりましたし。正直、中で起きていることとかはおかしなことなんですけど、あの時代の熱を否定できなかったというか、批判できなかったというか、皮肉も言えなかったです。

山下敦弘監督の“モットー”をお聞かせください。

目指すところはもっと自由に表現することです。映画を撮り始めた頃は「自然に」ってやたらと言っていたんですけど、最近はそれも違うなと。自然って面白くないなって思うようになって、最近の口癖は「自由に」になりました。この前初めて舞台の演出をやったんですけど、最後の方って僕は「自由に自由に」ってしか言ってないんですよ(笑)。「中学生日記」という大人が中学1年生を演じるものなんですけど、中1ぽさって最初は言っていて、だんだん中1ぽさってなんだよってことになって、散々言って最終的には自由にって。不謹慎かもしれませんけど表現する上ではもっと自由にって思っています。

最後に当インタビューを読んだOKWaveユーザーにメッセージをお願いします。

キャスティングというか、出てくる登場人物たちの魅力は十分に引き出せたかなと思います。妻夫木くんと松山くんに尽きるんですけど、このふたりのキャラクターの持つ魅力というか、時代ものとして観るよりも、今の自分だったらどうするかとか、今の時代に置き換えても成立する話だと思うので、そういうところを観てもらえればと思います。

山下敦弘監督がいま気になっていることを「質問」してください。OKWaveユーザーが「回答」します。

僕もよく聞かれて困るんですけど(笑)、
あなたにとって映画って何ですか?

Information

『マイ・バック・ページ』
2011年5月28日(土)新宿ピカデリー、丸の内TOEI他、全国ロードショー

1969年。理想に燃えながら新聞社で週刊誌編集記者として働く沢田(妻夫木聡)。彼は激動する“今”と葛藤しながら、日々活動家たちを追いかけていた。それから2年、取材を続ける沢田は、先輩記者・中平とともに梅山(松山ケンイチ)と名乗る男からの接触を受ける。「銃を奪取し武器を揃えて、われわれは4月に行動を起こす」沢田は、その男に疑念を抱きながらも、不思議な親近感を覚え、魅かれていく。そして、事件は起きた。「駐屯地で自衛官殺害」のニュースが沢田のもとに届くのだった。

出演:妻夫木 聡 松山ケンイチ
監督:山下敦弘/脚本:向井康介/原作:川本三郎「マイ・バック・ページ」(平凡社刊)
配給:アスミック・エース
公式サイト:http://mbp-movie.com/
Twitter:http://twitter.com/MyBackPage_528

(C) 2011映画『マイ・バック・ページ』製作委員会

Profile

山下敦弘
1976年8月29日愛知県生まれ
高校在学中より、ビデオカメラにていくつかの短編を制作。1995年、大阪芸術大学映像学科に進学し、同寮の先輩で『鬼畜大宴会』(1997)の監督・熊切和嘉と出会い、同映画にスタッフとして参加する。そこで知り合った同期のメンバーで数本の短編を発表。1999年、卒業制作として初の長編『どんてん生活』を完成させ、これを機に、制作団体「真夜中の子供シアター」を発足する。
『どんてん生活』は2000年ゆうばりファンタスティック映画祭のオフシアター部門のグランプリを受賞したほか、各国の映画祭で上映、大きな笑いと熱狂で迎えられた。続く第2作『ばかのハコ船』は東京国際映画祭からの新人監督への助成金を元にプラネット+1と共同で制作。そのオリジナリティあふれる世界観が絶賛される。つづく『リアリズムの宿』では主演に長塚圭史と山下組常連の山本浩司、音楽にくるりを迎え、つげ義春の原作に挑み、好成績を残した。2005年『リンダ リンダ リンダ』ではブルーハーツをコピーする女子校生バンドを見事に描ききり、ロングランを記録した。また、90年代初頭の片田舎を舞台に情けなくもいとおしい人間の本性を描いた『松ヶ根乱射事件』は、2007年東京国際映画祭コンペティション部門に出品された。

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