OKStars インタビュー

Vol.143 映画監督

瀬々敬久

OKStars Vol.143には映画監督の瀬々敬久さんがVol.21以来のご登場!2011年11月19日公開の映画『アントキノイノチ』についておうかがいしました。

『アントキノイノチ』映画化のきっかけはどんなところからだったのでしょうか。

数年前にプロデューサーからさだまさしさんの原作を読んでほしいと言われて、その時に無縁社会という特集がされたNHKの番組のビデオも一緒に渡されたのがきっかけです。当時、孤独死とか、人との付き合いが希薄になって無縁社会になってしまったと言われていて、遺品整理ということがその番組の中でも扱われていました。さだまさしさんの原作が興味深かったのは、二十歳そこそこの若い男女の視点でお年寄りの問題とされているような無縁社会とか孤独死の中に飛び込んでいくところです。その中で本人達も自分の喪失感の問題にもがき苦しみながら、再生しようと向かっていく物語で、そこが素晴らしいなと思いました。そういうところから映画の企画は始まりました。

では、映画化・映像で表現するというところでとくに大事にしたところは?

一番にはリアリティを大事にしようと思いました。遺品整理ということでは、人々が生きていた場所にその生きていた感じを出さないといけない。その人がどういう人生を送っていたかを、そこに残っているもので示さないといけないわけです。整理する側は整理しつつその人の人生を知っていく、そこのリアリティを重要視した。そこでまず美術部さんに原作のモデルとなった会社、キーパーズで遺品整理業の仕事を実際にさせていただき、岡田将生くん、榮倉奈々さん、原田泰造さんも遺品整理の仕事を体験してもらって現場に臨んでもらったんです。遺品整理する側の気持ちのリアリティもやはり重視しました。

「遺品整理業」という仕事について、監督が感じたことは?

遺品整理業は一見「死」を扱っている仕事だと見えますが、実際には「生」を扱っている仕事だと感じました。そこには生きていた人の痕跡があるので、こういう人だったんだという生の跡を追うような気がして、そこが重要だと思いました。この映画のテーマでもある、人の命に終わりはあっても、その人の思いなどは生き残った次の世代につながっていくというところを遺品整理業の仕事としても実感しました。

キャストについて。岡田将生さん、榮倉奈々さんには、どんなところを期待されましたか。

期待、というか、ふたりとも、こちらが望む以上のことをやってくれたと思います。榮倉さんはすごく優しい感性の持ち主ですけど、負けず嫌いなところがあります。榮倉さんが待ち時間に渡辺真起子さんと雑談をしていて、スポーツは人に順位を付けるところが好きではない、という話をしているのを聞いたことがあるんです。それは人間に優劣をつけるのが嫌いだってことだと思うんですね。でも、一方で負けず嫌い。自分に負けたくないんです。自分に厳しく、他人には優しい、そういう榮倉さんの感性が演じた久保田ゆきという役柄にも投影されていると思います。素の榮倉さんが役柄にうまくマッチした部分もあったし、遺品整理業という仕事を榮倉さんが演じると、いい意味でワーキングクラスがそこにいるように感じられました。そのリアリティさや存在感が彼女独特のいいところだと思いました。こういう女の子いるよねって感覚が伝わってくるのは、地べたを歩いて生きていくというような実感を彼女がすごく大事にしているからだと思えるんです。岡田くんの場合は、彼の年代だと「こう見せたい、こう見られたい」という意識があると思いますけど、彼自身はすごく素直に役に向かうので、自分はどう見られても平気、という部分が何となくあるんですね。なので彼はカメレオン的にどんな役でもできると思います。『告白』とか『悪人』にしてもある意味真逆な役柄を演じていますし。嫌われそうな役もちゃんと演じているという意味ではジョニー・デップのような役者さんだと思いました。とんでもないところまで演技の質が高まる瞬間もあって、素晴らしい役者さんだと思いました。

>ふたりを見守る役どころの原田泰造さんはいかがだったでしょうか。

映画の中では若いふたりが迷いもがいてうろうろしているわけですが、原田さんが出てくると日常のリアリティに話を引っ張り戻してくれるので、そういう落ち着きや吸引力というのは素晴らしいと思いました。悩み苦しんでいるふたりに対して錨を下ろしてくれるような方だと思いました。原田さん自身の存在感だったり、魅力が表れていると思います。

撮影期間中に震災が起きたとお聞きしましたが、作品作りへの心理的な影響や変化などはありましたでしょうか。

3月1日にクランクインして、3月11日に震災が起きました。その時は町田の方の団地で撮影していましたが、当日は撮影も中断して、スタッフは何人も帰れずにそこに泊まらないといけないような状況でした。それでも撮影は継続していきました。ただそうなるとキャストもスタッフも不安がりますよね。こんな大変な時期に撮影していてもいいのかという心の揺らぎが起きたと思います。その時にラインプロデューサーから「こういう状況ですが僕たちは粛々と映画を作っていきます」という宣言があって、みんなさらにキュッと一丸となりました。僕自身は、震災関連のニュースを見ていると、瓦礫の中から写真や遺品を探す被災者の映像が多く出てきて、この映画のテーマである遺品を通しての人と人のつながりをさらに考えました。震災前は、人と人のつながりが薄い無縁社会がテーマだと思っていましたが、こういうことが起こって、実はみんな絆とか人とのつながりを大事に思っていたんだということが実際に見えてきた。こういう時期だからこそ、この映画を作らなければならないと、キャストもスタッフも肌で実感していったと思います。そういう日本人の心の変化が映画の中にも表れていると思いますし、実感となってこの映画を支えていると思います。

撮影中の印象的な出来事などありましたらお願いします。

舞台となっている高校は北関東の方に二度撮影に行ってるのですが、1回目のロケの後に震災が起きて、2回目のロケでは被災している中で撮影できるのか不安にもなりましたが、現地の方も大丈夫と言っていただいたので撮影にいきました。行く途中には屋根を補修している家々も見えたし、高校の校庭は瓦礫置き場になっていました。それでも現場には地元のエキストラの方がたくさん集まってくれて、「撮影が来て、かえって嬉しいんだ」と。ああいう状況の中で一般の方に協力してもらえたことは、今でも心の拠り所になっています。

第35回モントリオール世界映画祭のイノベーションアワード受賞について、あらためてコメントをお願いします。

モントリオールに行ってもお客さんから「良かった」と言ってもらえました。実際に家族の遺品を整理したことがあるという感想が多かった。これは日本の問題を扱った映画ですけど、ワールドワイドな気持ちにもつながるものだとモントリオールの観客の方に触れることで再確認できた。賞をいただいたのも嬉しいですけど、一人ひとりのお客さんに伝わったという感覚がよかったです。 ただやはり、遺品整理業という仕事についてはみんな知らないと言ってました。日本独特のものなのかもしれません。

『アントキノイノチ』を通して、監督が得た・発見した気付きなどありましたらお願いいたします。

最初に映画を企画した時は、日本はどうして無縁社会になってしまったんだろうという問題提起だったのですが、3月11日の震災が起きて以降、やっぱり違ったんだ、人間はそういうものがないと生きていけない生き物なんだ、ということを再確認しました。その再確認が映画につながっていると言えるし、この映画の意味も再確認できたと思います。やはりああいう状況の中で作ったということが大きいところはあります。

監督からの『アントキノイノチ』見どころをお願いいたします。

岡田くん、榮倉さんをはじめ、出てくる役者さんは誰もが魅力的だし、生々しいし、そこを見るだけでもいいと思います。それとやはりこういう時代だからこの映画を通して、生きる希望を伝えたいと思いましたので、そういうものが伝わっていけばいいと思います。

では最後に瀬々監督からのメッセージをお願いいたします。

遺品整理という仕事を通して若い男女のふたりが命や人とのつながりを考え、もがき格闘し、再生していく映画ですが、いろんな世代の方に観ていただいて、世代間の会話ができるような、映画を通してさらにつながりが生まれるような、そういう機会になればいいなと思います。

瀬々敬久監督から世界の映画ファンに「質問」をお願いします。

『アントキノイノチ』では「元気ですかー」という言葉が
みんなを勇気付ける言葉として使われますが、
みなさんが気合を入れたり勇気をもらったりするような「言葉」を教えて下さい。

Information

『余命1ヶ月の花嫁』『Life 天国で君に逢えたら』のスタッフが贈る、心揺さぶる感動作誕生
第35回モントリオール世界映画祭イノベーションアワード受賞

『アントキノイノチ』
2011年11月19日(土)ロードショー

高校時代に友人を“殺した”ことがきっかけで、心を閉ざしてしまった永島杏平(岡田将生)。3年後、父の紹介で遺品整理業の現場で働き始めた杏平は、久保田ゆき(榮倉奈々)と出逢う。命が失われた場所で共に過ごす中で、次第に心を通わせていく2人。
そんなある日、ゆきは衝撃的な過去を杏平に告げる。そして、杏平の前から姿を消してしまう。
「生きること」に絶望を感じた男女が、出逢い、ともに遺品整理業の現場で、失われた命や、遺されたモノの息吹に触れることで、少しずつ生きる勇気を取り戻していく。彼らが過去を乗り越え、未来に踏み出す姿は、観る者に深い感動と希望を与えるに違いない。

監督:瀬々敬久
脚本:田中幸子、瀬々敬久
出演:岡田将生、榮倉奈々、松坂桃李、鶴見辰吾、檀れい、染谷将太、柄本明、堀部圭亮、吹越満、津田寛治、宮崎美子、原田泰造
配給:松竹
公式サイト:http://antoki.jp/

(c) 2011 『アントキノイノチ』製作委員会

Profile

瀬々敬久

1960年5月24日生まれ、大分県出身。
京都大学文学部哲学科在学中に『ギャングよ 向こうは晴れているか』を自主製作し、注目を浴びる。大学卒業後、1986年に獅子プロダクションに所属。助監督を経て、1989年『課外授業 暴行』で商業映画監督デビュー。以降、『MOON CHILD』(2003)、『感染列島』(2009)などの劇場映画から、ドキュメンタリー、テレビ、ビデオ作品まで様々な映像作品を発表している。2010年公開映画『ヘヴンズ ストーリー』が、第61回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞とNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)の二冠を獲得するという快挙を成し遂げた。

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