OKStars インタビュー

Vol.173 小説家

荻原浩

OKStars Vol.173は2012年4月28日公開の映画『HOME 愛しの座敷わらし』の原作者・荻原浩さんへのインタビュー!映画と原作のことなどおうかがいしました。

「愛しの座敷わらし」を書いたきっかけをお聞かせください。

新聞小説だったので、家族の話を書こうと思いました。普段は意図的にこういう媒体だから、というのは無いのですが、新聞自体は小説を読むための媒体ではないので、こんな小説ありますよ、と振り向いてもらえるように、家族、しかも5人家族それぞれの視点がコロコロ変わるようなものを書こうと思いました。その家族は普通なんだけど、どこの家庭にもあるような、ちょっとお互いの関係がギスギスしてうまくいっていないような家族で、くっつき合うのかもっとバラバラになるのかはともかく、その現状を打破する時に、家族に投げる石のようなものを用意しようと思いました。その時に思いついたのが座敷わらしだったということです。現実の話として、例えばしょうもないおじさんが突然居候を始めたら、家族はそのおじさんの存在自体がきっかけとなって、家族同士まとまったり、逆におじさんに子供たちが影響されて親とは違う価値観に目覚めたりすることもあると思います。これはフィクションなので、究極の変なおじさんみたいな存在が何かないかなと思った時に、座敷わらしに来てもらおうかなと思いつきました。

では座敷わらしをどんな風に家族に関わらせようと考えていましたか?

座敷わらし本人自体は何も分かっていない小さな子供で、性別も不明で、話の中では喋らせない様にしようと思いました。座敷わらし自体は何もしないんです。その存在に家族が気づいて、怯え驚き、ある時点からその存在に関して意識し、愛おしいと思ったりする。ただいるだけの存在が新しく加わることで、座敷わらしを見たり関わっている家族自体が、もうひとりの自分を見ていたり、自分の過去や未来を見ているような感じにしたかったので、ただ存在しているだけのものとしても座敷わらしが良かったなと思います。

座敷わらしという存在について、“いるもの”として描いていましたが、全くの空想にしなかったところは?

夢オチのような実はいませんでした、という終わり方ではどうなのかなと思いました。大人の物語としてはいいのかもしれませんけど、僕は子供みたいな話でも現実に出てきてしまう話の方がやっぱりいいし、それ以外はないなと思いました。

>読んでいて、実際にいるといいなぁと思いました。

実際にいるかどうかは、書き終わった今でもいればいいなというぐらいですけど、僕もいてほしいなとは思いますね。

ではこの『HOME 愛しの座敷わらし』映画化についてどう感じましたか?

>そもそも映画化の話はどのように伝わってくるのでしょう?

本を書いてしばらくすると結構お話自体はいただけるんです。ただ話だけで終わることも多いので、最初は「はい、はい」という感じでしたけど(笑)、だんだんと確定的なことが伝わってくるとそこで初めて驚きますね(笑)。嬉しいな、ありがたいなと思うと同時に、一抹の不安みたいなものも感じます。映画になると、ちょっと悪い言い方をしてしまうと原作を取られてしまうような感じになるんです。僕の原作で「明日の記憶」という大ヒットした映画がありましたけど、会う人会う人に「観たよ」って言われるんです。誰も読んでないの?って思うくらい映画の影響力が強いので、自分の物語が他人の物語になっていくことに関して嬉しい半面寂しいような複雑な気持ちがありますね。

そんな複雑な気持ちもありつつ、映画化で期待したところはいかがでしょう?

本を書く時、挿絵はありますけれども、基本的に自分の頭の中だけで作ってきたものなので、映像として観てもらえるのが、作者というよりもむしろ最初の読者として、嬉しい驚きがあります。

映画をご覧になられてどう感じましたか?

単純に、こういう世界だったのか、と他人事のように驚いたりしました。僕の場合、主人公も含めて、あまり登場人物の容姿とかを細かく描写しないので、晃一さんや史子さんがこんな人たちだったのかと観ながら納得してしまいました。

> 水谷豊さんについてはいかがでしたか?

映画化の話の中で水谷さんが主演ということを聞いて最初は「本当なの?」って思っていました。その時の水谷さんのイメージは「相棒」の右京さんだったので、オールバックであんな感じで出てくるのかなと。映画が完成する前にご本人にお会いして、TVの中の人物とは全く違って、もっと若々しくて、髪型も服装も違うし、こんな人なんだなってイメージが変わりました。それで『HOME 愛しの座敷わらし』を観たらまた別の人になっていたので、改めて役者さんってすごいなって感じました。実際の水谷さんは59歳ということですけど、こんなに若い59歳の方ってそんなにいないぞって会った時に思いましたけど、映画で見ると、こういうお父さんいるよね、と思えたのが驚きでした。

舞台となっている古民家には荻原さんご自身は住んでみたいと思いますか?

小説を書く前に古民家を取材して中の様子を見たり、岩手県の遠野の方には結構残っているので実際に見たりもしました。登場人物の気持ちのどちらも僕の気持ちで、お父さんとしてのこういう所に住みたいという気持ちは本当で、でもたまに来るならいいけど、毎日ここに住むのはどうなのかという気持ちもあります。話の中では遠野という名前は出さずに架空の場所として描きましたけど、とにかくここに住むためには駅から遠い、という設定でしたので、田舎でさらに駅から遠いという覚悟があるかというと、やはり住みたい気持ちとそれがいつまで続くだろうという気持ちの半々ですね(笑)。

「愛しの座敷わらし」では家族の幸せがどういうものかが描かれていますが、いま改めて家族の幸せということについてどのように思いますか?

書きたかったのは、普通であることって本当はすごく幸せなんだ、ということです。普段暮らしていると忘れてしまうというか、「あぁ今日も代わり映えしない1日だった」ってすぐに思ってしまいますけど、その代わり映えしない1日を過ごせることもそれはそれですごく幸せなことだということなんです。座敷わらしを登場させたもう一つの意味は、そういうことすらできなかった生きているだけでめっけもんという時代が、自分のほんの何世代か前まで普通にあったことを忘れてしまっているのかなと思ったことです。それと「幸せ」ということに関して贅沢を言い過ぎているのかなとも思います。「あれがあったら」とかいろんな情報が多すぎて、今の自分を他人と比較してあまり幸せではないと思っているから人間はどんどん不幸になっていってしまうのかなと思います。普通であることの幸せを僕自身感じるし、その普通というのは人それぞれで人と比べることではない、ということは小説を書き始めた頃からずっと思っていますので、それぞれの話の中でどのくらい書くかは別として、この「愛しの座敷わらし」の中でも書きましたし、今でもそう思っています。

では作品を書く時に大事にしていることは?

大きなところでは、伝える気持ちや、メッセージのようなものをちゃんと持っていようということです。小説は押し付けるものではないので、そういうものを声高に言うつもりもありませんけど、読み終わって面白かったと思ってもらうだけではなく、何かあれ?って思わせるような手土産みたいなものを用意して、それを感じ取っていただけるように準備しています。細かいところでは、一行一行をちゃんと書くことです。全体の構成や構築する世界が大事なのかもしれませんけど、文章の創造物というものは一行加えたり消したりするだけで印象が変わることがあるので、一行ごとに気合を入れて書いていこうとはいつも思っています。

では最後にOKWaveユーザーにメッセージをお願いします。

原作者が言うのも変ですけど(笑)いい映画だと思うので、ぜひ観てください。すごく綺麗な映像で、俳優さんたちも達者で、カーチェイスとか大事件は起きませんが、もっと細かな心の動きを揺さぶってくれる映画だと思います。ぜひ観て欲しいし、原作も読んで欲しいです。

>ちなみに読んでから観るのと、観てから読むのとどちらがいいですか(笑)?

僕自身は、先に映画を観てしまうとそのイメージで読んでしまうので、「この主人公、イメージと違うぞ?」とか原作なのに違うと思ってしまうので、作者としては読んでから観てくれた方がありがたいですね。

では荻原浩さんからOKWaveに質問!

気になる作品があって、映画と原作がある時、
みなさんはどちらを先に観たり読んだりしますか?

最近だと『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』って映画が気になって、原作から読む派としては、原作を読もうとすると上下巻あってとにかく長いんですよね(笑)。どこまで読めば映画に追いつけるんだろうって(笑)。でも小説を書く人間としては気になります。

Information

『HOME 愛しの座敷わらし』
2012年4月28日(土)G.W.全国公開

父・晃一(水谷豊)の転勤で、東京から岩手の田舎町へと引っ越してきた高橋一家。
晃一がよかれと思って選んだ新しい住まいは、なんと築200年を数える古民家だった!
東京での暮らしに馴れていた妻の史子(安田成美)は突然の田舎暮らしに不安と不満でいっぱい。中学2年の長女・梓美(橋本愛)にも古民家はただのボロ屋にしか見えず、転校先の学校生活を考えると心が落ち着かない。同居する晃一の母親・澄代(草笛光子)は田舎住まいには支障を語らないものの、最近、認知症の症状が始まりつつある様子。小学4年の長男・智也(濱田龍臣)は、治りかけている喘息の持病を今も史子にひどく心配され、サッカーをやりたくてもやれずにいる。五者五様、どこかぎくしゃくしている一家をやんわりとまとめたい晃一だったが、家族の不平不満をなかなかうまく解消することはできず、異動先の支社でも馴れない営業職に悪戦苦闘の毎日だった。
そんなある日、不思議な出来事が高橋家に起こり始める。誰もいない場所で物音が聞こえたかと思えば、囲炉裏の自在鉤が勝手に動いたり、掃除機のコンセントがふいに抜けたり、手鏡に見知らぬ着物姿の子どもが映ったり。どうやらこの家には東北地方の民間伝承で有名な“座敷わらし”が住んでいる!?
一風変わった同居人と高橋一家の不思議な共同生活。どうなる高橋家!?

水谷豊 安田成美 濱田龍臣 橋本愛 草笛光子

原作:荻原浩「愛しの座敷わらし」(朝日文庫刊)
監督:和泉聖治

http://www.warashi.jp/

(C)2012『HOME 愛しの座敷わらし』製作委員会

Profile

荻原浩

埼玉県生まれ。
1997年「オロロ畑でつかまえて」で第10回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
その後、04年に発表された「明日の記憶」が、05年の第2回本屋大賞の第2位にランクインし、同年5月には、第18回山本周五郎賞に輝く。06年には映画化され、大ヒットを記録した。過去4度も直木賞候補となり、いま最も受賞に近い作家の一人である。
「明日の記憶」「四度目の氷河期」といった家族小説で知られる名手。2007年に朝日新聞紙上に1月~11月までの約10ヶ月間連載された、第139回直木三十五賞候補に挙がった「愛しの座敷わらし」(朝日文庫刊)が本作の原作となり、ユーモラスかつ感動的な展開も相まって、幅広い年齢層からの支持を獲得した。

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