OKStars インタビュー

Vol.194 映画編集者

横山智佐子

この夏最大の話題作、≪人類の起源≫の謎に迫る、究極のエピック・ミステリー超大作『プロメテウス』。OKStars Vol.194は、映画『プロメテウス』を手掛けたリドリー・スコット監督ほか、様々なハリウッドの名監督の作品に編集者として関わる、横山智佐子さんが登場!製作サイドからみた『プロメテウス』や映画編集の魅力についてお聞きしました!

プロメテウスをご覧になった感想をお願いします。

やはりビジュアルが素晴らしく、近年の技術進歩、CGの世界はここまできたかと思うほど素晴らしかったです。

横山さんは他の作品でVFXの編集を担当されておりますが、他の作品と『プロメテウス』の違いは何でしょうか。

スケールの大きさやリアリティですね。私はCGの専門家ではありませんが、ちょっと前の映画から比べると、どこからが撮影でどこからがCGなのか区別がつかなくなっていると思います。

『プロメテウス』の面白さはどんなところにありますか?

各キャラクターの面白さですね。もちろんCGも凄いのですが、登場人物の面白さがないと映画というのは成り立たない部分もあると思います。特に私は、アンドロイドのデヴィッドが気に入りましたね。無垢なように見えて何か悪いことをしているんじゃないの?というミステリアスなところがありますよね。とても魅力的だと思いました。

今の若者がハリウッドデビューするためには、まず何を始めるべきでしょうか。

まずはハリウッドへ行ってみないとダメですね。日本には、ハリウッドでどのように映画を作っているかを知らない人が非常に多いんです。日本の業界、学校もあまり知らない人が多いですね。まず、作り方が日本と全然違うんですよ。ハリウッドが絶対に良いと言うわけではありませんが、私の学校では、違いを見て良い所と悪い所を比べながら、自分なりの良いものがどのようにしたら作れるかを教えています。日本の中だけにいたら、世界は見られないですね。
また、細かい事で言うと製作費が非常に違うのですが(笑)。ハリウッドは分業制で、日本は「監督天国」と言われていますね。監督は日本で映画を作った方が好きなように作れる、と。ハリウッドはプロデューサーたちがいて、彼ら全員のOKが出ないと映画製作の終わりにならないんです。さらに、製作過程で200人ほどの観客に見せて評価が高くない時も同様です。その度に、編集を重ねていきます。日本で編集と言うと「できた映像を繋げるだけ」というイメージしかないと思うのですが、実は編集には5ヶ月から8ヶ月、酷い時は1年から1年半もかけています。その間にシーンをカットしたり入れ替えたり、撮影し直したり、ボイスオーバーを入れたりと、長いものを短くしていきます。映画『SAYURI』のボイスオーバーは、編集の途中で何か入れた方がいいという話になり一番最後に付けたくらい。編集は重要なポジションにあります。
編集者と監督のタッグ対プロデューサーというようなかたちですね。プロデューサーはあくまでもどうやったら売れかを見ています。批判的な人もいるかもしれませんが、「沢山お金が儲かる=沢山の人が観てくる」ということですので、商業主義だと言いつつも作品が良くないと絶対に人は観に来ないんです。そのため、編集に物凄く時間をかけて、プロデューサーもなかなか首をタテに振ってくれないのがハリウッドです。

映画の編集という仕事と、やりがいについて教えて下さい。

「切って繋げる」というのはごく基本で、監督もいちいち編集者に口を出しません。一番大事なのは繋がってからです。2時間~2時間半の作品の中で、どうやって上手く観客にストーリーテリング(ストーリーを伝えること)をするかが面白いところですね。作品の一番いいところを見つけて、そこをどのように観客にアピールできるか、というのが編集です。
やりがいは、テストスクリーンなどでオーディエンスの反応を見たときに実感しますね。例えば、映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』は物凄く低予算な映画でしたし、観客に見せる前に何度も編集し直したので、作り手としては「いい映画」かどうかの感覚が麻痺していたんです。今でも覚えていますが、テストスクリーンで私の隣で泣いている人がいるのを見て、「あ、これはいい映画なのかな」と初めて思いました。編集という仕事はこういう凄いことができるんだな、と思いましたね。

オスカー受賞のピエトロ・スカリア氏に師事しましたが、スコット監督が彼とタッグを組む理由を教えて下さい。

監督が旦那さんなら、編集者は奥さんみたいなものですね。悪い所があれば監督にガンガン言いますが、あくまでも監督を立てます。編集者の中にはプロデューサー側に付く人もいますが、ピエトロさんの場合は監督が間違ったことをしていても監督を支持していくというスタンスなので、リドリー監督もそこを気に入ったのではないでしょうか。それ以外にもピエトロさんは非常に才能がある方で、リドリー監督のストーリーテリング面を上手くサポートされていたと思います。最初に繋いだときに5時間程あったものを2時間と短くしたので、ただ切っていくだけではいい作品にはならないということが理解して頂けると思います。

リドリー・スコット監督は、どういう人物でしょうか?

イギリス人ということで、アメリカ人独特のフレンドリーさとは違い、あまりニコニコと笑わないような方ですね。作品の印象から気難しいような雰囲気はあります。サーの称号を持っている方なので、簡単に「ハイ、リドリー」なんて呼べないですね(笑)。でも編集室では皆「リドリー」と呼んでいるので、ご本人も気にされてはいないと思います。一度お話ししてみると、そんなに気難しい方ではないですよ。ピエトロ氏とは編集のことでよく言い合っていますが、そういったこだわりがあるからこそ、いい作品ができていくのだと思います。

映画の制作方法のほかに、映画を作る人の性格に日本とハリウッドの違いはありますか?

ありますね。ハリウッドでは、編集は「もう一度絵を描き直して、演出し直す場だ」と言われています。これは編集者だけの言葉ではなく、名立たる監督の間では編集が楽しみだと言います。撮影の段階で良い所と悪い所が色々あると思いますが、最終的に形となるのは編集だ、というのを皆さん理解しているんです。脚本=映画ではなく、脚本は脚本です。もちろん、良い脚本は必要ですが、編集はあくまでも撮り上がってきたものからどうやって一番いいものが作れるか、ということころが日本と違いますね。
私が驚いたのは日本は脚本重視で、撮影するまで脚本を書かないらしいと聞きました。ハリウッドは脚本の段階で何年もかけて物凄い編集が既に入っていて、撮影に入って、また編集が入る、というところが日本と大きく違いますね。また、日本の宣伝方法と違い、コアなファンを別にして、ハリウッドでは監督の名前などはそこまで気にしていないと思います。大衆にアピールする世界なので、編集の方も観客に分かり易く作品の一番いいところを伝えるかに集中して編集しています。
そして、ハリウッドでは色々な人に見せますね。10週間ほどディレクターズカット期間というものがあり、その期間に編集者と監督の友達を沢山呼んで作品を見て、どう思うか、どの辺が面白くないか、どの辺がスローか、などを何度も話し合って作品ができていきます。

以前、テレビ番組でハリウッドで成功するためには「運」、「才能」、「粘り」の3つが必要とお話しされていましたが、具体的にはどうすれば良いか教えください。

普通、「才能」が一番大事だと思いがちですが、「才能」は10%か20%でいいと言われています。成功した人に訊くと、一番は「粘り」と言いますね。諦めてしまったら何もかも終わってしまうので、頑張ってやり続ければどこかに道が拓いていくのではないか、と思います。「運」も、棚から牡丹餅式ではなく、ずっと続けていくことによってその「運」に巡り合う可能性がどんどん増えていく、ということなんです。若い方には諦めずに続けてもらいたいですね。また、失敗も非常にいいことですね。全て順調に行ってしまうと次にいいものができないと思います。失敗してこそ、次回はそうしてはいけないんだ、と学んでいくわけです。

学校をつくったきっかけを教えてください。

映画製作では200人~300人も携わっている中の一人なので、ハリウッドで特別なことをしているという意識は全くありませんでした。ピエトロ氏のアシスタントとして日々忙しく編集をしていたある日、日本からインタビューの方がみえて、「凄いじゃないか、リドリー・スコットとやってるの?」と言われたのがきっかけでした。「言われてみればそうだよな。私ぐらいかな」というところから始まり、私だけで終わってしまっては寂しすぎるので、それじゃあもっと若い日本人の方に私が今まで学び取ってきたものを継承していきたいという思いから、2006年から学校を始めました。 アメリカの大学にも映画科は沢山あり日本人の学生さんもいらっしゃいますが、うちの学校の一番の売りは日本語でもOKだというところです。行きたいけれど英語ができないので行けなかった、という業界の方も半年~1年お休みされて来たり、日本語でできるなら行こうと来てくださる学生さんが多いです。また、アメリカに来るまでに親を説得したり、お金を貯めたりと決意を持っている方ばかりなので、皆さん凄く真剣ですね。

映画の見方が変わるような、編集者として注目してもらいたいところを教えてください。

ハリウッドの編集方法というものは「インビジブル・エディティング」と言って「見えない編集」です。見ている人が「あ、カットがあった」と思わせずに、何事もなく見せなくてはならないんです。だけど、ここぞというシーンは盛り上げていかなくてはいけません。私が一番気にしているのは、観客に何かを感じてもらいたいというところです。「いい映画」というものは何か感情を醸し出せるものだと思うので、そこを15分、2時間の中の「いつ」「どこ」で見せるかが編集において非常に重要だと思います。映画を観て何かを感じたときに、ストーリーや役者の演技だけではないものが絡んでいるな、と思ったときは編集のことを思って頂きたいです。だから、映画を観終わったときに「悲しかったな」と思った場所があるときは上手に編集されているからで、何も感じなかったときは編集がイマイチだったということになります。

いいエディターになる心構えやコツを教えて下さい。

これも、やり続けることが大事です。頭の中で考えているだけでは上手にはなりません。何度も何度もやっているとコツもわかってきますので、エディターとして色々な作品を編集していく訓練は非常に大切ですね。短いものから始まって、だんだん長いもの、という形で。
エディターは、その作品に対する一番はじめの「第三者の目」なんです。それまで監督など携わる製作者すべてがプリプロの段階から関わっているので、「分かって当然だ」という思い込みが入って分からなくなっている部分が多くあります。エディターはそこに客観的に入るので、非常に大切だと思います。正に私の好きなヒッチ・コックの世界ですけれど、どうすれば観客に分かり易く明確に感情を伝えられるかを考えて編集していきます。
映画は人に見られてナンボなんです。監督さんだけが「いいのができた!」と言って10人か20人の身内に見せても仕方がないんです。1万人、2万人の人が観て初めて価値が出てくるんです。だから、編集者は、もっと多くの人にというアピールをして編集するべきだと思います。また、残念ながら日本の監督は「自己満」が多いと言われていますが、ハリウッドは徹底してプロデューサーが入ってくるので、観客重視の作品が多いですね。

『プロメテウス』の見所をどうぞ。

『プロメテウス』の見所は、ビジュアルですね。初めて観る世界観だと思うので、できれば是非3Dで観て頂きたいです。他の3D作品のように脅かしたり飛び出したりというものではなく、立体感をつけてよりリアリスティックに見せるための3Dになっているので、是非楽しんで頂きたいです。

横山智佐子さんからみなさんに質問!

今、日本では、みなさんの周りではどのような流行がありますか?
皆さんにお答えいただきたいですね。

Information

『プロメテウス』
2012年8月24日(金)全国ロードショー 3D・2D同時上映

科学者エリザベス(ノオミ・ラパス)が、地球上の時代も場所も異なる複数の古代遺跡から共通のサインを発見した。それを知的生命体からの≪招待状≫と分析した彼女は、≪人類の起源≫の真実を探し求め、巨大企業ウェイランド社が出資した宇宙船プロメテウス号で地球を旅立つ。2年以上の航海を経て未知の惑星にたどり着いたエリザベスや冷徹な女性監督官ヴィッカーズ(シャーリーズ・セロン)、精巧なアンドロイドのデヴィッド(マイケル・ファスベンダー)らは、砂漠の大地にそびえ立つ遺跡のような建造物の調査を開始。やがて暗い洞窟を突き進み、遺跡の奥深くに足を踏み入れたエリザベスは、地球上の科学の常識では計り知れない驚愕の真実を目の当たりにするのだった……。

監督:リドリー・スコット(『エイリアン』、『グラディエーター』)
出演:ノオミ・ラパス(『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』、『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』)、マイケル・ファスベンダー(『SHAME -シェイム-』、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』)、シャーリーズ・セロン(『モンスター』、『ハンコック』)、ガイ・ピアース(『メメント』、『ハート・ロッカー』)

オフィシャルサイト:http://www.foxmovies.jp/prometheus/
ミステリーキャンペーン:http://www.foxmovies.jp/prometheus/mystery/
20世紀フォックス映画 配給
(C) 2012 TWENTIETH CENTURY FOX

Profile

横山智佐子氏(ISMP Executive Director)

三重県出身。名古屋女子短期大学卒業後、株式会社ダイエー入社。3年間勤務の後87年に渡米。91年ユニバーシティー・カリフォルニア・サンタバーバラ校映画科卒業。92年レオナルド・ベルトルッチ監督の「リトルブッダ」で編集室インターンとして、アカデミー賞受賞エディター、ピエトロ・スカリアと働き始める。その後同エディターの下、ガス・バンサント監督の「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」、リドリー・スコット監督の「グラディエーター」「ハンニバル」「ブラック・ホーク・ダウン」「アメリカンギャングスター」等でファースト・アシスタント・エディターを務める。04年には自らもチーフ・エディターとして独立。「アンティル・ザ・ナイト」「オンリー・ザ・ブレイブ」などのインディペンデント映画を編集。05年には紀里谷和明監督「キャシャーン」の、USA公開バージョンの編集や「さゆり」、09年公開の「GOEMON」や「リポゼションマンボ」にも携わっている。ハリウッドでは数少ない、第一線で活躍する日本人の一人。制作に参加した作品の中にはアカデミー賞を獲得、ノミネートされたものも数多い。06年に日本人フィルムメーカーを育てるため、ロサンゼルスに映画学校ISMPを設立。08年には全国5カ所でハリウッド映画に関する講演会も行った。10年には映画プロダクション会社「チーム J プロダクションズ」を設立。長編映画「A Better Place - ロサンゼルス極道戦争」「サキ」等をエグゼクティブプロデュースし監督も行った。

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