OKStars インタビュー

Vol.196 女優

松たか子

OKStars Vol.196は映画『夢売るふたり』主演・松たか子さんのオフィシャルインタビュー!さらに、西川美和監督のサインプリント入り<いちざわ>手ぬぐいを2名様にプレゼントしますのでお楽しみください。

『夢売るふたり』の台本を初めて読んだときの感想は?

とても面白いなと思いました。ただ、里子という役を自分ができるのだろうか?もう少し年齢を重ねた方がいいんじゃないか?という不安もありました。でも、脚本から、西川さんのオリジナルを書き上げる勇気というか、ガッツのある方だというのが再確認できたので、どういう映画になるんだろう…という楽しみの方が強かったです。どの俳優さんと組むかによっても捉え方がいろいろ変わっていくだろうなとドキドキしていました。

出演の決め手は脚本の面白さですか?

そうですね。以前、西川さんの『ゆれる』という映画を観たときに、女性の監督で、ここまでさばけたというか、描ける監督がいるんだと驚かされたんです。いつかご一緒できたらいいなと思っていたので、西川監督作品というのももちろん決め手でした。

演じた里子という女性について。どういう女性だと捉えて演じたのでしょう? 難しかった点は?

里子は自分の気持ちをあまり表さないというか、言葉で感情を伝えるタイプではなかったので、最初は何を考えているんだろう?と探りながらでした。どういうふうにしたら、そこに“いる”人になるんだろうと考えて…。なんて言うか、考えがふわふわしていたんですよね。でも、女の人ってこういうものなのかもしれない、分からないところがあっていいのかもしれない、とも思えてきて。根っからの悪人でもないし、悪人にもなりきれないし、だんだんと興味が湧いて愛おしさに変わっていきました。台本を読んだときに抱いた「自分ができるのだろうか?」という不安はすぐになくなっていきましたね。ただ、里子を演じるうえで、確認しておきたいことがひとつあって、貫也に対しての里子の愛情がどういう位置にあるのか監督に確認したんです。夫が他の女性のところに行くことによって夫婦関係が冷めきっていくのではなく、愛情はずっとあるということでいいんですよね?と確認して、安心しました。

それ以外に、里子の役作りにおいて監督とどんなディスカッションを?

「夫婦って面白いですよね」というような会話はしましたけど、切羽詰まった話合いはなかったです。それは監督とも阿部さんともですね。阿部さんはお互いの距離感を楽しめる俳優さんですし、阿部さんとの間に監督が「ちょっといいですか?」って入ってきたりして(笑)。とても居心地のいい現場でした。ポイントごとに「こういうイメージでやってください」「こういう気持ちでやってください」と言う監督の演出のセンスがとても面白くて。そうできたらそれが一番面白いだろうなって思わせてくれる、そういう演出でした。

里子には共感できましたか?

共感というか…里子たちに騙される女性たちは本当に気の毒ですよね。ウェイトリフティング選手のひとみちゃん(江原由夏)と一緒に食事をするシーンで、ひとみちゃんを見ながら「この人を騙しちゃダメだよ、里子」って思ったんです。でも、騙される女性にもそれぞれ色気があって、やっぱり騙されてしまう人たちなんですよね(笑)。誰も騙されたくはないでしょうけれど、女性には、本能的に、たとえ騙されたとしても私は大丈夫、やっていけるという強さがあるような気がするんです。そんなふうに女性は立ち上がっていく強さがあるけれど、もしもこれが男性だったらもっと悲惨になっていくのかもしれないですね。

完成した映画を観た感想も聞かせてください。

自分で脚本を読んだだけでは想像しきれないものが映画にはたくさんありました。出ていないシーンもあるので、「ああ、あのシーンはこんなふうだったんだ」とか、「阿部さん大変だったな…」とか(笑)。阿部さんは相当、体を張っていますから、妻として、ああいう場所に夫を送り出していたかと思うと、可哀想だなと思ったりも。

阿部さんご自身は「貫也ってダメな男だよね…」とコメントしていましたが、松さんから見た貫也の魅力は?

里子と貫也の小料理屋“いちざわ”のお店が火事になってしまって、くさった貫也が焼けあとのお店の前でビールを飲んでいるところに里子が自転車で通りかかるシーンがあるんです。自転車から見下ろすように貫也の顔を見たとき、「ああ…もうっ、しょうがない。何でもやるわっ」と思えたんですよね。この人のこんな顔を見たら「何だってやってやるわ」という気持ちになった。そういう、人を引き込む力が貫也にはあって、阿部さんが貫也を演じることで、それが豊かになったと思う。そう考えると、里子は貫也に騙された一番最初の女性だったのかもしれないですね(笑)。

魅力的な男性ですからね。

そうなんです。なので、最初に台本を読んだときに、台本は里子、貫也の順番になっていたんですが、貫也、里子の順番で貫也を一番にしてもらえないか? って言ってしまったんです。でも、西川監督に女性を描きたいので…と言われてしまった(笑)。私はその時すでに里子目線だったのかもしれないです。(貫也に惚れているから)貫也の話でいいんじゃないのかなって思ったのかも。ただ、これは夫婦の話なので、どちらか一方だけが強く生き残ってもいけないし、どちらが弱くなったときに両方が弱くなってもいけない。夫婦の面白い引っ張り合いがあった方がいいんだろうなとは思いました。

ご自身が結婚されているからこそ演じられた部分もありますか?

どうなんでしょう。結婚していなかったら結婚ってどういうものなのかを一生懸命想像しつつ、人と関わりながら演じたでしょうし、結婚しているから演じられる、というわけではないと思うんです。私も阿部さんもお互い家庭を持ちながらこの“いちざわ”夫婦を演じたわけですが、自然と夫婦を演じられたのは、お互いが結婚していることで、近すぎず遠すぎずの夫婦の距離感をイメージできたからなのかもしれないですね。里子と貫也は新婚夫婦というわけでもないので、あんまり頑張りすぎるわけでもなく、ちょっと気の抜けた感じなんだろうな…というイメージで臨みました。

里子を演じるうえで気を付けたことは?

ものすごく印象深く残っているのは、後半、お店のカウンターをはさんで貫也と話しをしているシーンですね。「まだまだ(お金が)足りない」という里子のセリフに対して貫也が「お前の足りんはお金じゃない」と言っている姿を見て、貫也がこんなにスラスラと淀みなくしゃべっている、あの里子が押されている…と思いながら、なぜかその風景がとってもまぶしくて、とっても悲しかったんです。詐欺をはたらいたことで、いつの間にか貫也が強くなったというか成長したというか、その時、里子として貫也との間にとても距離を感じたんですね。そして、貫也が手の届かないところにいると思いつつも格好いいなと思ってしまった。カウンターって、こんなに距離を感じるものなんだなとも思いました。長く、緊張感のあるしんどいシーンでしたが、阿部さんを信頼できたからこそできたシーンでした。

ほかにも貫也を格好いいと思った瞬間はありますか?

阿部さんの料理をする姿は、とても板についていて格好良かったです。だから、女性たちがうっとりしている姿を見て「でしょ? 素敵でしょ? うちの旦那!」って思っていました(笑)。

仕事をしてみたかった、という西川監督の印象も聞かせてください。

キャラクターに嫌なことをさせる、そういう一面を役者から引き出すことに関しては天才的ですね(笑)。いつの間にかそういう役を演じてしまっているんです(笑)。それができるのは、監督のなかにはっきりとしたイメージがあるから。自分で脚本を書いて、役者の表情を引き出せることは素晴らしいです。自分の書いた脚本を大切にしすぎて、とらわれすぎてしまう危険性もありますからね。役者同士が自由にやっているようにみえて、実は監督のビジョンにスッと入っている感じ。それは傍から見ていてとても見事で、演じている身としてはとても心地いいものなんです。さらに、はっきりしたイメージを持っているけれど、頑固でストイックというわけでもなく、「それもいいですね」と、現場で起きたことを面白がるフットワークもある。要は頭の良い方なんです(笑)。西川さんの手の平の上で、私は「ワーイ!」って踊らされていたんだと思います(笑)。

そのなかで、特に印象に残っているエピソードを挙げるとしたら?

ひとつ挙げるというのは難しいけれど、例えば、一度やってみてやっぱりこっちで行きましょう! という、その判断が速いことですね。後半のあるシーン、貫也が出かけるときに里子が彼の腕を持って引き止めるシーンがあるんです。最終的には腕をつかんで放すだけになったんですが、リハーサルでは「行かないで」というセリフを言ったり、抱きついたりするバージョンも試しました。それを見ていた監督は、一瞬悩んで「やめましょう」と決断。セリフも抱きつきもないバージョンになりました。でも、違うバージョンを試みたときの阿部さんの表情がとても印象的で、それはそれで意味のあるトライだった。私が考え込む一瞬は1秒くらいでしかないけれど、監督にとっての一瞬は1日考えたほどの思考が詰まった一瞬なんです。ものすごく深い一瞬だと思う。ほんとに決断力のある監督です。そういう方が監督であることは心強い。監督のためならいくらでもトライしたいと思いますし、全然辛くないんです。

タイトルの『夢売るふたり』について。

面白そうなタイトルだなと思いましたね。監督はこの2人は自分たちの夢を売っていく2人なんだと言っていたんですが、私は「人に夢を売る」という感覚も強く感じて。だから登場する女性たちが、最後にはきれいになってほしい、女性たちにすっきりとしてほしいとも思っていました。でも、描いても描いても謎があって、謎があるからこそ生きていたいと思えるのであって、そういうことを監督は伝えたかったのかなと。謎を知りたいって思う、その謎と知るために生き続ける、監督なりの「生きていればこそ」という応援のようなものも込められているのかなと思いました。

最後に、この映画を楽しみにしている方々に向けてメッセージを。

やっぱり、大人の方に観てほしいですね。演じている自分自身も分からないことだらけだったので、もしかしたら、興味本位で観るとケガをしそうな感じもしますが(苦笑)。物語を楽しめる大人の人は、きっと楽しんでもらえるんじゃないかなと。貫也のことがとても好き、そういう気持ちで里子を演じているので、ラブストーリーとしても楽しめると思います。夫婦のラブストーリーですね。夫婦って、一番近くにいるのに血のつながりはなくて、血のつながりがないからいつでも離れられるはずなのに離れられなくて、憎かったり愛しかったり、とても不思議な関係。そこにラブストーリーを感じます。間違ってしまった2人ではありますが、愛情が冷めたわけではない2人なので、そこにささやかな愛の形を見つけてもらえるのかなと。そう思います。

(聞き手:新谷里映さん)

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Information

『夢売るふたり』
2012年9月8日ロードショー

東京の片隅にある、小料理屋。腕が確かな料理人で、愛嬌のある夫・貫也。その夫を支えながら店を切り盛りする妻・里子。ふたりの店は小さいながらも、いつも常連客で賑やかだった。ところが5周年を迎えた日、調理場からの失火が原因で店は全焼。夫婦はすべてを失ってしまう。もう一度やり直せばいいと前向きな里子とは対照的に、やる気を無くした貫也は、働きもせず酒に酔う日々。そんなある日、貫也は駅のホームで店の常連客だった玲子に再会する。酔っ払った勢いに任せて、玲子と一夜を共にした貫也。翌朝、浮気は里子にすぐにバレてしまうが、妻はその出来事をキッカケに、夫を女たちの心の隙間に忍び込ませて金を騙し取る結婚詐欺を思いつく。自分たちの店を持つという夢を目指し、夫婦は共謀して次々と女たちを騙して始める。結婚したい実家暮らしのOL、男運の悪いソープ嬢、孤独なウエイトリフティング選手、幼い息子を抱えたシングルマザー。計画は順調に進み、徐々に金は貯まっていく。しかし、嘘の繰り返しはやがて、女たちとの間に、そして夫婦の間にさえも、さざ波を立て始めていく…。

原案・脚本・監督: 西川美和
出演: 松たか子 阿部サダヲ
配給:アスミック・エース
公式サイト:http://yumeuru.asmik-ace.co.jp/

(C)2012「夢売るふたり」製作委員会

Profile

松たか子

1977年6月10日、東京都生まれ。
1993年、「人情噺文七元結」(歌舞伎座)で初舞台。翌94年、NHK大河ドラマ「花の乱」でテレビデビューし、95年にはドラマ「藏」(NHK)でヒロイン・烈を演じる。以降テレビドラマや舞台に多数出演。映画は『東京日和』(97/竹中直人監督)、『四月物語』(98/岩井俊二監督)、『ナイン・ソウルズ』(03/豊田利晃監督)、『隠し剣鬼の爪』(04/山田洋次監督)、『THE 有頂天ホテル』(06/三谷幸喜監督)、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(07/松岡錠司監督)、『HERO』(07/鈴木雅之監督)、『K-20 怪人二十面相・伝』(08/佐藤嗣麻子監督)、『大鹿村騒動記』(11/阪本順治監督)等に出演。『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』(09/根岸吉太郎監督)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、キネマ旬報ベスト・テン・主演女優賞ほか数多くの賞に輝き、大ヒット作『告白』(10/中島哲也監督)で日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞した。また、97年より音楽活動も行っている。

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