OKStars インタビュー

Vol.200 『天地明察』

滝田洋二郎&冲方丁

OKStars Vol.200は江戸時代に改暦を成し遂げた安井算哲(後の渋川春海)を描いたベストセラー『天地明察』の映画公開記念!同映画の滝田洋二郎監督と原作者・冲方丁さんへの対談インタビューをお送りします。

「天地明察」原作を書かれたきっかけと、今回の映画化のきっかけについてお聞かせください。

冲方丁 : 高校生の時に安井算哲という人物のことを知って、いつか小説にしたいと思っていたのですが、なかなか難しくてようやく書けたのが30代になってからでした。直接のきっかけは日本のカレンダーへの興味です。海外で暮らしていたので、日本のカレンダーの無方図さに驚きました。何しろ、クリスマスと仏滅が同じ日に書かれているくらいですから。この非常に柔らかく、矛盾したものを内包している日本人性というものは何だろうなというところから、改暦をした安井算哲のところにつながっていきました。彼の人生の深さや勇気の持ち方に憧れて、この人の人生を書きたいと思いました。

滝田洋二郎 : 『天地明察』というタイトルがまず素晴らしいと思いました。私は暦は当たり前にあると思っていたので(笑)、人は育ったところで考え方も変わるし、日本人は与えられたものを素直に信じる民族なのかなとは思いました。ただ、その暦がずれていてはやはり困るため、正しい暦を作ろうという動きがあり、その中にこんなにもドラマがあったのかというのが最初の驚きでした。ただ、どの時代にあっても人間関係や感情でしか世の中は動いていないんだなと感じたのと、正しい暦を作ろうとした安井算哲という人物に感銘しました。また、算哲の時代と今の時代はよく似ているので、いま映画にしても今の時代に合うのかなと強く感じました。

映画化についてどう感じましたか?原作者としてリクエストされたことは?

冲方丁 : まず話をいただいた時に、滝田洋二郎監督が、というお話だったので、そんなすごい話は迂闊に信じないようにしようと思いました(笑)。実際に滝田監督に初めてお会いして監督のお考えをお聞きしたら、僕が言うことは何もないと感じました。作品を読み込んでいただいていましたし、監督が焦点を当てたい部分は僕が小説で伝えたいと思っていた部分と合致していました。それこそ同じ星を違う角度から見るというだけでしたので、映画に必要な資料はお出ししましたが、こちらからの注文はありませんでしたね。 また、監督をはじめ、主演の岡田さん、技術の方々皆さんの読解力がすごくて、原作にはあえて書かなかった部分も踏み込んでご理解されていたので、そうやって読解して咀嚼して新しいものを生み出されていくのを僕自身見逃さないようにしようと思いました。

原作の内容の濃さを映画化する際に、どの部分に注力しようとしましたか?

滝田洋二郎 : 時代を変えよう、暦を変えようとする安井算哲がいて、算哲を変えようとする関孝和がいて、囲碁界を変えようとする本因坊道策がいて、算哲を横から支えながら自分の意見も言うえん。この若い4人の青春物語にしようとしました。原作には重要な人物がたくさん出てきますが、例えば酒井忠清という人物は割愛させていただいて、時の権力の頂点と算哲が直接近い関係にあるように整理しました。その4人と今の時代に欠けている次世代に託そうという思いを持っている保科正之と水戸光圀を後見人に置いて、後は人間関係で言えば敵を探すだけ。原作でもたくさん敵はいますけど、当時の暦を司る公家を対立軸においてシンプルな物語にした分、人間関係を濃くして、算哲の行動を厚く描きました。このやり方は正解だったかなと思います。心地良く分かりやすく観られるようにはなったと思います。
一番大変だったのは天文用語の説明や、そもそも人物たちが何をしているのかをどう理解してもらうかということですね。たとえば、会津領の観測所の中でいろんな観測をしていましたが、それをどう面白くスリリングに見せるかということとかですね。ただ、算哲のジェットコースターのような人生をうまく描けばメリハリが出るんじゃないかと思いました。

>岡田さんの算木など、珍しいものが出てきましたが?

滝田洋二郎 : 算木はそろばんよりも前の時代のものなので、なかなか時代劇にも出て来なかったものですが、先生について指導いただいて、みんなで勉強しましたので、あの場面では岡田さんが算木を使って実際に計算をしています。
算術についても、先生方に作っていただいているので、いずれDVDになったら止めて観ても大丈夫(笑)。そのくらい徹底してやりました。とはいえ、小説は書けば書くほど入り込めるところがありますが、映画は時間を止められないので流れの中でどう説明するかに注力しました。

映画をご覧になられていかがでしたか?

冲方丁 : 物事の周囲を固める時に大事なものは中核で、何を残したいのかということなんですが、その中核が原作と一致していました。その中核とは安井算哲の青春。いろんな人のモデルケースになるであろう、現代にも通用する生き方ですね。構成などについては言うことがないです。最初の5分でよくあんなややこしい人間関係や政治的なものを説明できるなと。主人公が碁打ちなのに暦を読むややこしさとか。それと、御城碁での初手天元のインパクトとかも、小説だと読者の想像力に委ねるしかないですけど、あの天元に打つ違和感とインパクトは映画ならではの表現ですね。

滝田洋二郎 : あれは意思表示です。小説もそうだし、映画も、このように生きたいという意思表示です。碁盤自体が宇宙を表しているそうで、真ん中が北極星。つまり算哲は真ん中の北極星を打つことで、中心を目指していく生き方をしたいということだろうなと考えました。算哲のすごいところは自分が興味を持ったことにこだわり続けるところ。世襲制とはいえ、碁打ちとして約束された人生がありながら、それでも天体と算術にこだわりたいというそのこだわりが大切だし、素敵だなと思いました。

冲方丁 : 天体といえば、映画の中で映っている星座の位置が全て正確なんですよね。安井算哲もそうですけど、監督の映画を作る姿勢も伝わってきて感動しました。

滝田洋二郎 : いまは国立天文台でその時代の星座が分かるんですね。それを参考にこだわって作りました。

冲方丁 : 僕自身、こうだったんだ!と勉強になるところもありました(笑)

キャスティングの部分についてのこだわりなど。

滝田洋二郎 : キャスティングは、算哲がどんな男か、というところが全てでした。星を見ているピュアな青年…どんなやつだよと(笑)。大切なのは碁打ちという世間的な曖昧さですね。恵まれている部分と、オタク的に取り組む部分が碁打ちにはあります。一方で星を見たり、算術をして嬉々とする表情と、改暦事業に巻き込まれて、その中で変化していく表情。青年から男の勝負師の顔に変わるという表情の変化と、碁打ちの顔と両方がつながった人物、ということで、若い岡田准一さんを、どう変わるのかということも含めてキャステイングしました。岡田さん自身、冲方さんとは対談もされていて知り合いだったということからも大正解だったと思います。宮﨑あおいさんは、算哲を支えながら、時にはすごくキツイことを言う、これはリアルでピッタリだと(笑)。彼女には独特の華がありますし、相当いい夫婦なんじゃないかとキャスティングの時には確信していました。

>冲方さんはイメージ通りでしたか?

冲方丁 : 活字の良さは想像力に委ねられるところと、小説を書いている時には具体的なイメージは持たずにいるので、そういったものはありませんでしたが、映画を観て羨ましくは思いました。算哲の帯をえんが直してあげるなんていうのは、活字では伝えにくい部分なので。僕自身、後日自分の作品に活かそうという気持ちで観ていました。

第81回アカデミー賞外国語映画賞受賞『おくりびと』以後に手がけられた最初の作品ということではいかがだったでしょう。

滝田洋二郎 : 僕自身は早く撮りたかったですね。やはり注目されるし、何を言われるかは覚悟していますし、アカデミー賞だったからといって、いつも前の作品を忘れるために次の作品を撮るという気持ちでもいるので、『おくりびと』から間が空きすぎたのは自分としては悔しいですね。ただ、そのおかげでこの作品と出会えましたので、それはそれで良かったです。

では最後にメッセージをお願いします。

滝田洋二郎 : 碁打ちが生涯をかけて手を伸ばし続け、改暦を成し遂げるという、そんな男のドラマですから、その中には挫折もあり、非常に地味で斬り合いもありませんが、スリリングなシーンも素晴らしいキャストもいますので飽きないで観られると思いますしどんな年代の方も楽しんでいただける映画だと思います。

冲方丁 : 現代の希望の映画だと思います。

『天地明察』にちなんで、みなさんに質問!

『天地明察』と国際的ソーシャルQ&Aサイト「ARIGATO」の連動質問です!

Q1.アナタの「信念や願い事」は?

Q2.季節の変わり目を感じる瞬間や風物詩は?

奮ってご回答ください!

Information

『天地明察』2012年9月15日(土)全国ロードショー!!

江戸時代前期。碁打ちとして徳川家に仕えながらも、算術や星に夢中な青年・安井算哲(岡田准一)。何かに熱中すると周りが見えなくなる、ちょっぴり頼りない算哲だが、四代将軍徳川家綱の後見人、会津藩主・保科正之(松本幸四郎)は、そんな算哲に、秘かに注目していた。
その頃、日本には、重大な問題が起こり始めていた。それは、800年にわたり使われていた中国の暦が数日ずれ始めたこと。当時、暦は、宗教家、公家、武士、庶民の生活の拠り所。暦を司ることは、国を治めるほどの意味を持っていた。だが、当時、朝廷が暦を扱い、幕府が簡単には手を出せない。しかも、暦作りには、星や太陽を観測するという途方もない労力と知識が必要とされる。そこで、保科が、正しい暦を作るという大計画のリーダーに据えたのは、なんと安井算哲。幕府の人間でもなく、学者でもない算哲が選ばれたこと、それは、異例の大抜擢だった。
えん(宮﨑あおい)、水戸光圀(中井貴一)との出会い、そして、和算家・村瀬義益(佐藤隆太)、天才和算家・関孝和(市川猿之助)、囲碁界の革命児・本因坊道策(横山裕)らとの友情…。算哲の、挫折と失敗だらけの、暦作りへの挑戦の日々が始まった!

監督:滝田洋二郎
原作:冲方丁
音楽:久石譲
出演:岡田准一 宮﨑あおい ほか
共同配給:角川映画/松竹

オフィシャルサイト:http://www.tenchi-meisatsu.jp/
Facebookページ:http://www.facebook.com/tenchimeisatsu.movie

(C)2012「天地明察」製作委員会

Profile

滝田洋二郎
1955年富山県高岡市(旧福岡町)生まれ。
85年、映画『コミック雑誌なんかいらない!』を監督。『木村家の人びと』(88)、『病院へ行こう』(90)、『僕らはみんな生きている』(93)、『お受験』(99)、『陰陽師』(01)、『壬生義士伝』(03)、『バッテリー』(07)などの作品で人気を集め、08年公開された『おくりびと』が、モントリオール世界映画祭グランプリを皮切りに、日本アカデミー賞作品賞、監督賞、報知映画賞など数々の賞を受賞。103冠(12年4月現在)を達成し、09年には米国アカデミー賞外国語映画賞受賞という快挙を成し遂げた。

冲方丁
1977年岐阜県生まれ。
96年、大学在学中に「黒い季節」で第1回スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。以後、小説を刊行しつつ、ゲーム、コミック原作、アニメ制作と活動の場を広げ、複数のメディアを横断するクリエイターとして独自の地位を確立する。03年「マルドゥック・スクランブル」で第24回日本SF大賞を受賞。09年に刊行した初の時代小説「天地明察」で2010年本屋大賞、11年大学読書人大賞、第31回吉川英治文学新人賞、第7回北東文芸賞、第4回舟橋聖一文学賞の5賞を受賞した。最新作は水戸光圀の波瀾万丈なる生涯を描いた「光圀伝」。

OK LABEL

回答投稿にあたっての注意とお願い

OKStarsからの質問は、OKWave事務局(ID:10q-OK)が質問投稿とベストアンサー選定を代行しています。
当企画は、OKWaveの他のカテゴリーと異なる主旨での運営となっています。原則的に回答への個別のお礼はつきません。あらかじめご了承ください。
ご回答の際には利用規約禁止事項ガイドラインに沿った投稿をお願いいたします。