OKStars インタビュー

Vol.222 女優/プロデューサー

杉野希妃

OKStars Vol.222には約1年ぶりに女優/プロデューサーの杉野希妃さんが再登場!主演・プロデュースされた『おだやかな日常』のことを中心にお聞きしたインタビューをお送りします!

『おだやかな日常』をプロデュースするきっかけは何だったでしょう。

3.11の東日本大震災が起きて、その後に内田伸輝監督から映画の企画の話を聞いて欲しいというお話がありました。内田監督としては日本だけではなく、海外でも通用する作品にしたいということで、私の制作会社に連絡をいただいたんです。最初は簡単なプロットと『おだやかな日常』というタイトルだけがあって、篠原友希子さんが演じることになるユカコとタツヤだけのストーリーでした。読ませていただいた時に、震災後がテーマということで、福島や仙台などが舞台ではない、私や監督が住んでいる東京という、原発事故があったところとは微妙な距離感があるところでの、様々な人々の反応を描くということに意義を感じたので、一緒に企画を進めることにしました。

>それはいつ頃だったのでしょう?

だいたい2011年の6月頃ですね。

>ちなみに震災の当日はどちらにいらっしゃいましたか?

大阪アジアン映画祭で映画を観ている最中でした。距離的には離れた大阪であっても、かなり揺れました…。

今回、震災や原発事故というテーマと向き合うことについて思ったところは?

一般の方々も学者の方々も、ある人は危ないと言っていて、一方で安全だと言う人もいて、東京という場所の微妙な距離感だからこそ直面する人との関わり方や自分の立ち位置というものを考えました。この映画に出てくるすべてのキャラクターが私の中にあるような複雑な感情で、危ないからどうしようという気持ちがある反面、そう思っているばかりだとあまりにも不安すぎて日々を過ごせないから忘れたくなるという気持ちもありました。私は原発事故の後、暫くマスクをつけていましたけど、放射能が怖いからと言う時もあれば花粉が飛んでいるからと、相手を選んで言い方を変えてしまいました。危ないと思う気持ちは自由に思っていいと思うのに、それを過剰な反応、と否定する人達がいることには悲しい気持ちになりました。自分と違う思想や価値観を持つ相手がいるということを尊重することができない現象があって、そこへの違和感や疑問もありました。

内田伸輝監督とは企画を進める上でどんな話をしましたか。

震災後、一般の女性の反応がなかなか表向きには出てこなくなったんじゃないかと思っていました。世の中の政治家や学者の方には男性の方が多いので、そういう方々はそれぞれ主張されて世の中に声が届きますけど、一般市民の女性の気持ちが阻害されているような感じが何となくしていたんです。女性は子どもを産む立場だし、料理をしたり家事をしたりと、生活に密着しているので、そういう「生」を担う女性の視点から作った方が内田監督と私の言いたいことがよりリアルに描けていけるんじゃないかと思って、女性をメインのキャラクターにして、女性にエールを送る内容にしていこうと企画を進めていきました。

撮影はどのように進められたのでしょう。内田監督は即興を取り入れることが多いとのことですが、撮影現場での様子などお聞かせください。

元々、現場では即興をやってもらいたいという話を聞いていたんですけど、企画開発をしてシナリオを何稿も重ねていく時にはお互いすごく細かい作業をしていて、台詞も一字一句変えたりしてシナリオを作っていました。でも、そのシナリオは壊すことが前提で、撮影が始まる直前に内田監督からは、本当に感じたことだけを言って欲しい、流れの中で押さえておく必要な台詞と単語だけ頭の中に入れてさえいれば台詞は完璧でなくてもいいし、自分がその時感じた感情を出してください、という言われ方をしました。なので、役者はみんなどうやって脚本を破壊していくのかを楽しみにしている半面、恐怖心も持ちながら演じましたね。

>幼稚園での言い争いのシーンのリアルさは迫るものがありましたね。英語字幕が付いていたのでそちらと照らし合わせると、日本語は言わなくても伝わる部分がある言語だと感じました。結論的なことを言葉で言っていなくても、画面を見ていると動きと表情でちゃんと伝わっているんですよね。

言い争いのシーンでは感情が起き上がってきて、思わずどもってしまう役者さんもいましたけど、監督は「そのどもりが最高に素晴らしい!」と言っていて、正確に言おうとせずにむしろどもってくれと。それが人間のありのままの姿じゃないかって仰っていました。音響の方がどもりの部分は直せますよと伝えたら監督は「それは絶対にやめてくれ!」と(笑)。そのくらい生のリアルさを出したかった、ということですね。

>会話が全般にリアルで、本当の何かを観ているんじゃないかと思いました。

そう言っていだただけると嬉しいですし、まさに内田監督の狙い通りですね。

>演じる側としてはそのようなやり方はいかがでしたか。

即興芝居自体はやったことがありますけど、脚本があるものを完全に壊してもう1回なぞるということは初めてで、でも楽しみでしたね。自分がどういう風になるのかということと、役作りはするけど、それを現場ではすべて忘れる、という感覚が面白かったです。役柄的にはつらいことが多いキャラクターですけど、役者としては楽しい現場で、リアルなのかリアルじゃないのか自分でもよくわからない不思議な感覚でした。普段は自分の作品は客観的に見られるんですけど、この作品は演技の良し悪し以外は平常心では見られなくて、演じていた時の不思議な感覚が蘇ってきて、複雑な気持ちにさせられるんです。

サエコとともに軸となるユカコ役の篠原友希子さんについてはいかがだったでしょうか。

>実際に同じ画面での共演は最後の方だけなんですよね。

そうなんです。ユカコ役の篠原さんは本当に優しくて人が大きい方だという印象ですね。私が演じたサエコが義母のところに行って土下座して謝るシーンは、個人的には一番難しかったシーンで、すっと役に入っていけなかったんですけど、車の中で篠原さんと待機している時には、すごく支えていただいたなあと思います。なので、付いていきたいお姉ちゃんでもあるし、戦友のような存在でもある。このユカコ役を篠原さんに演じてもらったのはこの映画の財産だと思います。

>ちなみにそのシーンにすっと入れなかったのは何か理由が?

それが分からないんですよね。他のシーンは1テイク目ですっと役に入って、怒ったり泣いたりすぐにできたのが、なぜかあの時は苦労しました。そういう時にどう引き出していくか、役者は瞬発力や集中力が問われる職業ですよね。ただ、何度も同じことを完璧に再現できるロボットではないですし、繊細な生き物でもあるので、監督やプロデューサーが役者というものをちゃんと理解していないといけないと思います。プロデューサーとしての自分にも肝に銘じています。そういった意味で内田監督は役者の存在を信じ、寄り添ってくれることのできる監督さんで心強かったです。

『おだやかな日常』の出演、製作を通じて一番印象的だったことは?

プロデューサーという立場だと、とにかくお金を集めるのがすごく大変でしたね。「こういうテーマは、みんな忘れたがっているのに、フィクションとして描くことに何の意味があるのか」と仰る方もいました。また、福島に住んでいる方はもっともっとご苦労されていて、しかもそれが現在進行形で続いている問題なので、福島の方が作品を観た時にどんな反応がくるのかは懸念事項として感じていました。でも東京が舞台で様々な立場の人を描くことは避けて通れない気もしていました。最終的には、応援してくださる方がいて作ることができた作品なので、日本だけではなく海外でもちゃんと通用する普遍的な作品になったんじゃないかと個人的には思いますし、作品のためにも出資者のためにも海外でも公開していかなければならないと思っています。

そういう意味でも、釜山国際映画祭でのワールドプレミアでは反響などいかがでしたか。

この作品を作る時に、反響についてはかなりの覚悟をしていたんです。罵倒する方もいるだろうなというくらいの覚悟で作ったんです。賛否両論が激しくあるんだろうなと。それが意外にも釜山は反応がものすごく良すぎて、かえってびっくりしました。この作品を勇気を持って作ったことにまず海外の方々がよくやったという気持ちで送り出してくれていると感じられました。海外でもちゃんと商業作品として通用する作品にしようと思って作ったのですが、韓国でも商業作品として通用すると思うから劇場公開して欲しいと何人もの方に言われたので、その点でも勇気をいただきました。
もちろん、これからの日本公開と、他の海外の映画祭に行くにつれ、批判の声もあると思うので、そういう意見も受け止めて真摯に考えていかないといけないなと思います。

本作では日本の今を描きましたが、“国際派”女優・プロデューサーとしての活動はいかがでしょうか?

国内外こだわらずやっていきたいとは思うのですが、個人的に注目している国はフィリピンとかタイなんです。フィリピンの監督とは1本撮って、もう1本撮影途中のものがあります。実は東南アジアの国は日本よりも映画業界が進んでいるんじゃないかなと思わされることもあるし、海外の映画祭のプログラマーの方も日本映画よりもタイやフィリピンの映画に期待していると仰られることもあって、もっと日本映画も見習って新しいことに挑戦していかないといけないなと危機感を抱いています。合作映画はアジアのみならず、私はフランス映画が好きなので、フランスとの合作もいつか作りたいと思います。欲を言えばきりがないですね(笑)。
いま日本の映画はかなり二極化していて、予算の大きい映画は日本市場だけを見ていて、アート作品は国内での興行はイマイチだけど海外では大絶賛されるという状況なので、予算の大小に関わらず、世界で上映していけるような作品を作るべきだろうし、そういう仕組みを作っていくべきなんじゃないかなと思います。

前回のOKStarsでの1年前のインタビューでは、監督にも挑戦してみたいと仰っていましたが?

現在進行形で2本進めている作品があって、1本は原作があるもので、もう1本は日韓合作で自分でシナリオを書いています。でも、とくに後者はシナリオを完成させてお金を集めるところからですね。情熱はものすごくありますけど、それだけでは作品が作れないので(苦笑)、時間がかかっても作りたいと思います。

では最後にOKWaveユーザーにメッセージをお願いします。

私はこの映画を通じてサエコを演じながら自分自身が今まで貯めていた感情を出せるということや、自分の拠り所のようなものを見つけられた気がします。とくにこの『おだやかな日常』は女性に観ていただきたいと思いますし、観ていただいた後に癒されるというか、自分の居場所がここにあったんだと思えるような作品になることを願っています。特に、ひとりでも多くの女性の方、未来を担っていく若い方に観ていただきたい作品です。ぜひ劇場へお越しください。

杉野希妃さんがいま気になっていることを「質問」してください。OKWaveユーザーが「回答」します。

国際タイトルを『ODAYAKA』にしたのですが、
この「おだやか」という言葉は日本独特のニュアンスがあるのではないかと思っています。
皆さんにとっての「おだやか」とは何ですか?

Information

『おだやかな日常』
2012年12月22日(土)より渋谷ユーロスペース、大阪シネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館、神戸元町映画館ほか全国順次ロードショー

2011年3月11日、東京近郊。同じマンションの別の部屋に住むユカコとサエコ。その日も他の日と同じ日常が続くはずだった。地震とその後起こる放射能事故がなければ通路で挨拶を交わすだけの二人の人生が、思いもよらぬ形で交錯していく。福島原発から漏れだす放射能は、ユカコの生活を少しずつ蝕んでいく。日常に入り込んでくる放射能を遮断できない苛立ちと不安は、夫との関係にも揺らぎをもたらす。一方、震災直後に別の女性の元へ行ってしまった夫を頼ることもできず、ただ一人、子どもを守らなければならないサエコは、娘の通う幼稚園での思い切った行動によって徐々に周囲から孤立していく。やがて不安を抑えきれなくなったサエコはある事件を起こしてしまうのだった…。

監督・脚本・編集:内田伸輝
プロデューサー:杉野希妃、エリック・ニアリ
出演:杉野希妃、篠原友希子、山本剛史、渡辺杏実、小柳友、渡辺真起子、山田真歩、西山真来、寺島進
製作・配給・ワールドセールス:和エンタテインメント

OFFICIAL SITE: http://www.odayakafilm.com/
Twitter: http://twitter.com/odayakafilm
Facebook: http://www.facebook.com/odayakafilm

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Profile

杉野希妃

1984年生まれ、広島県出身。
慶應義塾大学在学中にソウルに留学。2006年、韓国映画『まぶしい一日』宝島編主演で映画デビューし、続けて『絶対の愛』(キム・ギドク監督)に出演。帰国後2008年に『クリアネス』(篠原哲雄監督)に主演。2010年に主演兼プロデュースした『歓待』(深田晃司監督)が東京国際映画祭日本映画・ある視点部門作品賞などを受賞した他、100以上の映画祭からオファー殺到。2011年、第24回東京国際映画祭で「アジア・インディーズのミューズ」として特集が組まれ、第33回ヨコハマ映画祭の最優秀新人賞、おおさかシネマフェスティバル2012の新人女優賞を受賞。その他の主演兼プロデュース作品は『マジック&ロス』(リム・カーワイ監督)、『避けられる事』(エドモンド・ヨウ監督)、『大阪のうさぎたち』(イム・テヒョン監督)など。『ほとりの朔子』(深田晃司監督)、『Jury』(イム・テヒョン監督)、『Kalayaan』(アドルフォ・アリックス・ジュニア監督)などが公開待機中。

オフィシャルブログ:http://stblog.stardust-web.net/suginokiki/

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