OKStars インタビュー

Vol.231 来日記者会見

アン・リー監督

OKStars Vol.231は『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のアン・リー監督の来日記者会見の質疑応答をお送りします。

まずはご挨拶をいただけますでしょうか。

日本に来るのをいつも嬉しく思います。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』は私にとって今までで一番難しい作品になりました。4年かかって3,000人のスタッフ、キャストと一緒に作り上げた作品です。日本の皆さんが楽しんでいただけたらと思います。

アカデミー賞11部門ノミネートおめでとうございます。アカデミー賞は監督にとってどういう意味を持つものでしょうか。

アカデミー賞は世界で最も大きな賞と言えるかと思います。世界中の目が向けられている場でもあります。芸術的に最も優れている作品が受賞するかときかれると、そうとは限りません。ですが、基準はあると思います。そのひとつは同業者に認められる賞であること、ふたつめには世界中に向けてスピーチを通じてお礼が述べられる名誉があると思います。アカデミー賞を一度獲るとその肩書が一生つきまといます。昨年のニューヨーク・メッツの始球式に出た時に、観衆の前で「アカデミー賞監督のアン・リー監督です」と紹介されました。多くの賞をいただいていますが常に「アカデミー賞の」と紹介されます。その始球式では完璧なストライクボールを投げてしまいました。プレッシャーに負けてしまいましたね(笑)。

作品は3Dの効果が素晴らしいです。吹き替え版では本木雅弘さんが主人公パイの声を演じていますが、そのことについてのご感想と、本木さんに会われた際の印象をお聞かせください。

本木さんは非常に素晴らしい映画人で尊敬しています。私は『シコふんじゃった。』から彼の映画を観ていてファンでした。『おくりびと』を私は2回観ましたが、妻は8回も観ていて本当に大ファンです。彼が声優として参加してくださったのは名誉あることで、非常に繊細な部分を演じてもらいました。私は日本語は分かりませんが、素晴らしい表現力だったと思います。彼は繊細で、自分の人生を生きていると思います。ひとつひとつ選んで演じているのだろうし、そうすることで人を感動させる演技ができているんだろうと思います。今回携わっていただけて大変感謝しています。また機会があれば一緒に仕事をしたいと思います。友情を育んでいきたいです。

今までは文化的なギャップなどをテーマに撮られてきましたが、今回はたったひとりの少年を撮られました。少年パイを描く上で、どの部分を大事にしましたか。

視覚効果が大きな作品ですが、私自身は人間関係を中心としたドラマを描くことを主眼においています。対立や、自分に忠実にどう生きるか、というようなテーマの作品を好んで作ってきましたが、この作品を気に入ったのは、内面的なものが描かれていることです。映画監督としては内面をいかに外に出すかということを、どう見せるかを考えます。人物が考えているだけでは分からないので、行動してもらう。つまり今回はトラと出会うということですね。パイという数字は割り切れない数字で、パイというキャラクターは万人を表している人物です。海洋上にいるパイという者は、人との関わりが無くなってしまいます。確たる宗教心を持っているわけではない人物ですが、抽象的な意味で神との対面をすることになります。宗教や信仰を持たない者が神と対面するときに、神の存在をどう捉えるのか。全てを支配するものなのか、自分の中に存在するものなのか、2つの考え方があります。今回パイを描く時にはどんな人にも当てはまるようにしようと考えました。成長したパイはインドを離れることになりますが、動物園で育ったというある種の楽園を離れ、試練を受けることになります。どうやってサバイバルをしていくのかということや、リチャード・パーカーというトラの存在による彼の中のバイオレンス性、純粋さの喪失、といった大人に向かって成長していく姿を描いています。こどものパイも大人のパイも俳優の演技に拠るところは大きかったです。脚本に書かれていた内容に色をつけていったのはまさしく俳優たちです。そして、お父さん、お母さんが象徴しているもの、いろいろなシンボルを映画の中に入れ込んでいますが、私が説明するよりも観客の皆さんが観て見付けていただきたいと思います。

スラージ・シャルマの演技が素晴らしかったですが、演技初経験の彼をどのように演出していきましたか?

かなりたたきましたよ(笑)。まずはじめに、16歳のインド人の映画スターはいないので新人を見付けるしかありませんでした。そこでインドの高校生3,000人くらいをオーディションしました。そして12人まで絞り込んだ中にスラージがいました。彼に会った時に一目見てパイだと感じました。それまでは具体的なイメージがあったわけではなかったのですが、彼に会った時には私たちが探しているものを全て持っていると確信しました。魂にあふれていて、深い目をしていて、カメラに愛される人物だと思いました。びっくりしたのは、ある状況を与えて演じさせると、完全にその状況に入り込んで抜け出せなくくらい信じるところですね。試しに身の上話を語らせてみる際に「自分の家族に置き換えてやってみて」と言ったら、すっかり入り込んで、最後の方には震えて泣き出すくらいでしたので、まさしくパイにピッタリだと思いました。ただ、彼は海を見たこともなく、泳げなかったので、3ヶ月間は水泳のレッスンを受けさせました。個人的に演技のレッスンもしました。ですが、撮影を開始して1週間くらいで、彼は小さなブッダのように自然体で悟りを拓いたかのように演じていたので、教えられることはもうありませんでした。ですので、彼との撮影は本当にすごい体験でした。海洋上のシーンではストーリーの順番通りに撮っていきましたが、3ヶ月かけて、痩せ細っていくために、体重も落としながら演じていました。最後の方は彼は自分の狂気と戦うことに専念するような状況で、撮影現場でもあえて話しかけないようにして孤立させるようにしました。表情も変わっていきましたし、若い彼をみんな教えたがっていましたが、最終的には彼がスピリチュアルなリーダー的な存在になっていました。ですので、私たちが映画作りの初心に返されるような気になりました。スラージのお母さんから私は「スラージの先生」と言われていますが、私こそが彼からたくさん学んだと思います。

将来的に監督は台湾で映画を作る計画はありますか?それとアカデミー賞のライバル『リンカーン』についてどう思いますか?

『リンカーン』のことは少しも恐れていませんよ(会場笑)。贈る言葉は「グッドラック」でしょうか。正直に言うと、オスカーは世界最大の賞ですが、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』は特別なプロジェクトだったので作れただけで満足しています。これまでどの国でもヒットしていますし、各国で多くの友だちができました。とはいえ、アカデミー書の11部門でノミネートということは好意的に受け止めています。ですがインド人の俳優たちの演技が素晴らしかったのにノミネートされていないことは残念で、私は13部門でノミネートされたと思っています。
『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』は英語で作っていますが、アジアの作品にも注目してるし、いつも観ています。今はアジアの映画にとって本当に良い状況だと思います。アジアの表現でアメリカに影響を与えられる、世界に影響を与えられる状況だと思います。私自身、これだと思う作品があれば台湾での作品も作りたいと思います。

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Information

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
2013年1月25日(金)TOHOシネマズ 日劇ほか全国公開<3D/2D同時上映>

1960年代初めのインド・ポンディシェリで生まれたパイは、父親が経営する動物園でさまざまな生き物と触れ合い、勉強や初恋に一喜一憂する少年だった。ところが1976年、16歳になったパイの人生は根底からひっくり返ってしまう。カナダ・モントリオールへの移住を決めた両親、動物園の動物たち、そしてパイが乗り込んだ日本の貨物船が、洋上で嵐に見舞われて沈没したのだ。生き残ったのは、必死の思いで救命ボートに避難したパイと、足を折ったシマウマ、ハイエナ、オランウータン、そしてベンガルトラのリチャード・パーカーだけだった。まもなくシマウマらが相次いで命を落とし、パイは体重200キロを超すトラとともに、果てしなく広大な太平洋をさまようことになる。
わずかな非常食で当面の飢えをしのぎ、家族を亡くした悲しみと孤独にも耐えるパイは、どのようにして腹を空かせた獰猛なトラの襲撃をかわし、この絶望的な極限状況を生き抜いていくのか。今では大人になったパイがカナダ人のライターに語って聞かせたその先の物語は、まさに事実は小説より奇なり、227日間にも及ぶ想像を絶する漂流生活が待ちうけていた…。

監督:アン・リー(『ブロークバック・マウンテン』『グリーン・デスティニー』)
出演:スラージ・ジャルマ、イルファン・カーン、ジェラール・ドパルデュー
原作:ヤン・マーテル「パイの物語」
配給:20世紀フォックス映画

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(C) 2012 TWENTIETH CENTURY FOX FILM

Profile

アン・リー/Ang Lee

1954年、台湾生まれ。
台湾の国立芸術専門学校を卒業後に渡米。ベルリン国際映画祭に出品された『推手』(91)で長編デビュー。アメリカ&中国の合作による武侠アクション『グリーン・デスティニー』(00)でアカデミー賞10部門の候補となり、外国語映画賞など4部門を制した。2003年にはマーベル・コミックの人気キャラクターを映画化した『ハルク』を手がけ、全米大ヒットを記録。そして『ブロークバック・マウンテン』(05)はアカデミー賞8部門に名を連ね、自身初の監督賞に輝いた。その後も『ラスト、コーション』(07)がヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。『ウッドストックがやってくる!』(09)も好評を博した。

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