OKStars インタビュー

Vol.251 映画監督・プロデューサー

佐々木芽生

OKStars Vol.251には映画監督・プロデューサーの佐々木芽生さんが登場!普通の市民でありながら世界有数のコレクションを保持するアートコレクターのハーブ&ドロシー夫妻を追った『ハーブ&ドロシーふたりからの贈りもの』についてお聞きしました!

『ハーブ&ドロシーふたりからの贈りもの』を製作するに当たって、何を伝えようと考えましたか?

前作の『ハーブ&ドロシーアートの森の小さな巨人』を作り終えたのが2008年6月で、この1本目の映画が完成する直前に、ハーブ&ドロシーのコレクションの全米50の美術館への寄贈計画が発表されました。ただ、その時にはまさかハーブ&ドロシーの2本目を作るとは夢にも思っていませんでした。それから半年ほど経ったところで、寄贈を受ける美術館は5年以内に展覧会を開くという約束になっていて、その一番目に展覧会を開いたインディアナポリス美術館のオープニングにハーブ&ドロシーが招待されました。2人が行くなら私も付いて行ってカメラを回そうかなと思いました。その時に初めて2人の作品展というものを観て、この2人のセンスはやっぱりすごいなと思ったんです。私は4年間ずっと2人を追って来ましたけど、例えるなら役者さんを舞台裏で追っていながらその役者さんが演じる舞台を観ていなかったように、この2人のコレクションに触れて、もっと知りたいなと思ったのが最初のきっかけでした。

全米各地の展覧会での来場者の反応が映画の中で見られますが、実際にその場にいていかがでしたか。

こどもたちの方が何の先入観もなかったです。こんな抽象的な作品をどうやってこどもたちに見せて説明するのかなと思いましたけど、意外とこどもたちの方が抽象的であればあるほど、すごく想像力を掻き立てられてものすごく強烈に反応していました。逆に年齢が高くなればなるほど、反応が鈍くなるというか、頭で考えて大人たちは「こんなのうちの孫でもできる」みたいな反応になっていくのが見ていて面白かったですね。素直に反応できるのは中学生くらいまでで、高校生になった途端にだめでした(笑)。その辺りから想像力みたいなものが閉じられていくのかなとも思いました。

取材をしている期間にはサブプライム問題(2008年1月)などもありましたが、アート界の環境などに変化はありましたか?

不景気になったことで、アートの世界も影響を受けたのかもしれませんけど、NYにいる分には分からなかったです。NYのアート市場で作品を買う人は世界中から来るので、中国や中近東から買いに来る人たちを相手にしている美術商の方にはあまり関係なかったと思います。逆に、美術館や一般の方を相手にしているところはいろんな助成金がカットされたりしているのですごく大変だと思います。

> ではやはりこのハーブ&ドロシーの寄贈プロジェクトは全州の美術館にとってはウェルカムな状況だったのですね。

そうですね。一方で、ハーブ&ドロシーのコレクションは美術館が好んで買う作品ではないんです。2人の持っている作品のほとんどが紙の作品で、アーティストの代表作みたいなものではないからですね。美術館はやはり代表作を欲しがるので、お金があっても買わないタイプの作品なんです。けれども、ドローイングなどは、そのアーティストが大作を製作する時の構想やプロセスが見てとれるので、ハーバード大学やエール大学など、大学の付属の美術館では多く引き取られていって、すごく感謝していました。

ハーブ&ドロシーは本国での知名度はどのくらいなのでしょう。

2人が初めてアメリカ国立美術館(National Gallery of Art, Washington)に寄贈することを発表した1992年には「ニューヨーク・タイムズ」の一面に載って世界を驚かせましたので、当時は知らない人はいなかっただろうし、アート界で知らない人はいなかったと思います。だんだん年をとって外にも出なくなっていったので、知名度も無くなっていきましたけど、前作の『ハーブ&ドロシーアートの森の小さな巨人』でまた2人の知名度も上がったみたいです。ハーブが亡くなった時は「ワシントン・ポスト」は一面に出ましたし、「ニューヨーク・タイムズ」でも取り上げられました。そういう意味では映画は2人に少しは貢献できたのかなとは思います。

ハーブは2012年に亡くなられてしまいましたが、撮影の最中でどう感じましたか。

その頃はほぼ毎日2人に会いに行っていたので、2人の友人としては心を痛めている部分もあり、一方で映画のことも考えなくてはならない気持ちもあって、そのバランスを取るのが辛かったですね。でも最後は映画というよりも、ドロシーはどうなるんだろう、ドロシーをどうやって支えていこうかということが一番心配でした。今思えば映画のことをもう少し考えた方が良かったですけど、そんな余裕はなかったですね。

もし今からハーブ&ドロシーのような取り組みをやろうと思ったらできるのでしょうか。

できなくはないとは思いますが、今のアート市場はグローバルな規模になっています。ハーブ&ドロシーがいろんなギャラリーを巡って作品を集めていた時は、ギャラリーの数も限られていたし、週末を使えば全部回れるくらいの規模でしたので、今は物理的にギャラリー巡りを1日で全部するのは無理ですね。ただし、今はインターネットがあるので情報収集はしやすくなっているとは思います。彼らのやり方そのもので集めるのは難しいとは思います。

> ドロシーも映画の中でネットを使って寄贈先の美術館の状況をチェックしたり、新しいことに挑戦していましたが、そういうエネルギーのある人物なのでしょうか。

そうですね、あの年齢にしては新しいことにチャレンジするタイプだと思います。

> ハーブ&ドロシーを言い表すとどうでしょう?

2人で1人という感じでした。見ていて夫婦としては一番理想的な形かなと思いました。ハーブの体調が悪くなって、車椅子に乗るようになると、その負担が全てドロシーにかかっていたので、それはかわいそうでした。

日本公開に際して、クラウドファウンディングで資金集めをされていましたが、その取り組みについてのご感想をお聞かせください。

日本には寄付文化がないと皆さん言いますが、そんなことは決してないと思います。皆さんが興味があって助けたいと思うプロジェクトを支援できるプラットフォームがちゃんとあれば、日本人はすごく寛大だし、寄付文化がない、というのは違うと思います。ただ、ネットを使うことになると、ある年齢層以上の方には抵抗感があるし、インフラもまだまだだと思います。アメリカで使った「Kickstarter」はすごく良くできていて、ファウンディングをする私たちにもとても使いやすかったです。一方で日本のサイトは仕組みがややこしいと言う人がかなりいましたので、そういう環境を変えないと厳しいのかなとも思いました。今回1,000万円を集めるという大風呂敷を広げてしまいましたが、本当に実現するのかは始める前には分かりませんでした。ですが、やってみたら実現できたので嬉しく思います。これをきっかけにもっと映画関係者やアーティストが使えるようになればいいですね。ただ、クラウドファウンディングにものすごくエネルギーを取られてしまって、肝心の創作活動に時間もエネルギーも残らなくなってしまうので、それをどうするのかが大きな課題だと思います。私の場合は支えてくれるチームがいたので、自分1人でやらなくて済みましたけれども。それとお金を集めることそのものよりも、支援してくれた人たちがちゃんと満足してもらえるようなフォローをきちんとできるかどうかがとても大事だと思います。それをやらないといけないと思います。

製作全般で大変だったことと、それをどう乗り越えてきましたか。

この2作目は待っていてくれる人がいるということですね。それこそクラウドファンディングで支援してくれた方々がいるので、まずは彼らの期待を裏切ってはいけない、ということが大きなモチベーションになりました。1作目を作った時に学んだことですが、製作中は次から次へといろんなことが起きるので、一度やると決めて腹を括ったら、淡々とやるべきことを積み重ねていくことですね。あまり考えすぎずに、ゴールを遠くに見据えて、そこに焦点を当てて行動していきました。

佐々木監督にとって「ドキュメンタリー」とはどういうものでしょうか。

いろいろな考え方があっていいのですが、日本ではドキュメンタリーと言うと少し誤解があるように思います。『ザ・コーヴ』というドキュメンタリー映画は「これはドキュメンタリーではない」という批判もありましたが、私はまさにあの作品はドキュメンタリー映画だと思います。ドキュメンタリーは表現手法の1つですし、映画はすごく主観的なものなので、その作家が自分の言いたいことをその手法を使って世に訴えているということです。私が作るドキュメンタリーでは、それを観てポジティブな意味でちょっと世の中の見方が変わるとか、自分の人生を考え直すきっかけになればと思います。糾弾するようなドキュメンタリーもありますし、私も見るのは好きですけど、自分にはそういうものは作れないと思います。

では最後にOKWaveユーザーにメッセージをお願いします。

『ハーブ&ドロシーふたりからの贈りもの』は前作よりもアートについて考えながら作った作品で、この映画を作りながらアートとは何だろうなと、アート探しの旅に出たところがあります。全米10館の美術館が出てくるので、その答えを探すためのロードトリップ的な感覚で観ていただければいいかなと思います。それとこのハーブ&ドロシーという類まれな、とても素敵な生き方をした2人の人生に触れて、楽しんで観てほしいと思います。

佐々木芽生監督からOKWaveユーザーに質問!

『ハーブ&ドロシーふたりからの贈りもの』を
観る選択をした方は何に興味をもちましたか?
『ハーブ&ドロシーふたりからの贈りもの』を
観ない選択をした方はその理由をお聞かせください。

Information

『ハーブ&ドロシーふたりからの贈りもの』
2013年3月30日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次公開

ごく普通の一般市民でありながら世界有数のコレクションを保持し、ついにはアメリカ国立美術館にそれらを寄贈するまでに至った有名アートコレクターのハーブ&ドロシー夫妻。コレクション開始から半世紀を経て、5,000点近くの膨大な作品群は、全米50の美術館に50作品ずつ寄贈されることになる(通称「50×50(フィフティ・バイ・フィフティ)」)。この前代未聞のアート寄贈計画を、夫妻とアーティストたちはどんな思いで受けとめるのか?また、ふたりのアートが様々な土地でどのように受け入れられるのか?そして、ついにコレクションの幕は閉じられ、ふたりに別れの時が訪れる…。監督は前作に引き続き、佐々木芽生。

監督・プロデューサー:佐々木芽生
提供・配給:ファイン・ライン・メディア・ジャパン
公式サイト:http://www.herbanddorothy.com/jp/

Profile

佐々木芽生

青山学院大学仏文科卒。1987年に渡米。以来NY在住。
1990年よりフリーのジャーナリストとして活動。1992年NHKニューヨーク総局勤務。1996年独立し、テレビ・ドキュメンタリーの取材・制作に携わる。2002年、映像制作会社の株式会社ファイン・ライン・メディア・ジャパンをNYにて設立。
2008年、初の監督・プロデュース作品『ハーブ&ドロシーアートの森の小さな巨人』を発表。同作品は、世界で30箇所を超える映画祭に正式招待され、米シルバー・ドックス、ハンプトンズ国際映画祭などで、5つの最優秀賞や観客賞を受賞。NYでドキュメンタリー映画としては異例のロングランを記録、日本をはじめ世界各国で異例の成功を収める。今作の他に、捕鯨問題をテーマとして長編ドキュメンタリー映画製作に向けて取材を進めている。

OK LABEL

回答投稿にあたっての注意とお願い

OKStarsからの質問は、OKWave事務局(ID:10q-OK)が質問投稿とベストアンサー選定を代行しています。
当企画は、OKWaveの他のカテゴリーと異なる主旨での運営となっています。原則的に回答への個別のお礼はつきません。あらかじめご了承ください。
ご回答の際には利用規約禁止事項ガイドラインに沿った投稿をお願いいたします。