OKStars インタビュー

Vol.285 映画監督

リンダ・ホーグランド

OKStars Vo.285はカナダ・バンクーバーで開催された写真家・石内都さんの写真展をもとにした映画『ひろしま 石内都・遺されたものたち』のリンダ・ホーグランド監督へのインタビューをお送りします!

『ひろしま 石内都・遺されたものたち』をつくるきっかけは何だったのでしょうか?

元々は2008年に石内都さんと会った時にこの写真展のための写真を見せてもらって、全く新しい切り口で“広島”に入れる、違う入り口を作ってくださったな、と思いました。悲惨な映像や写真ではなく、美を通して、広島に入れることに惹かれました。彼女には前作『ANPO』にも少しだけ出演してもらって、そこでは横須賀の作品(「絶唱、横須賀ストーリー」)と今回の広島の衣服の作品を紹介しました・『ANPO』は評判が良くてトロント映画祭、バンクーバー映画祭に招待されて、そのバンクーバーに行く前に、石内さんから何とか北米でこの写真を展示したいという話を聞きました。やはりアメリカはハードルが高いので、バンクーバーだったら、ということでブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)人類学博物館の館長さんに写真を見せたら、感銘していただいて展覧会が開催されることになりました。あんな素敵な博物館で展示される機会があるなら何らかの形で映画という作品に残したい、と思って、『ANPO』も撮ってくださった、是枝裕和監督の『誰も知らない』で撮影を担当した山崎裕さんに頼んだらぜひやりたいということで映画製作に至りました。

映像は穏やかに差し出されている印象です。どんなところに気をつけましたか?

『ひろしま 石内都・遺されたものたち』では昔のモノクロの映像は一切削除しました。あれはみんな見て知っているし、日本人にはトラウマになっていますので。それとチェロとバイオリンは無し。音楽には奥ゆかしいマンドリンを採用しました。感情的に悲惨さを突きつける作品ではなくて、穏やかにお客さんが観たくなる作品を意図的に作りました。

本作では写真展に訪れた方へのインタビューを行なっていますが、良い話がたくさん聞けました。このインタビューのねらいは?

写真展という舞台なので、この作品の主題は、本質的なアートに出会った時の人間の主観的な反応は何なのかということです。だからこそ私たちは美術館に足を運ぶんですよね。本物のアートに出会って、何か自分が刺激される、その主観的な瞬間を描写しようとしました。広島に関心が無い人がアメリカ人の7割だとして、客観的にはそのことが事実であっても、私はそんな人には興味が無いですし、この映画には関係のない話です。この映画は本質的なアートになぜ人間が惹かれるか、ということと、ちゃんと弔われていない人たちもきっといるであろう被曝して亡くなられた方たちへのレクイエムなので、ドキュメンタリーを目指しているわけではないのです。映像も相当演出していますし、インタビューも意図的に興味を持ってくださった人にしか聞いていません。「この展覧会で一番気になった作品を教えてください」ということを聞いているのですが、この写真たちはどんな人が着ていたのかといった情報を何も記さずに展示しているので、ディティールを想像する中で傷ついた自分自身の心に気付いて、そのことを話してくださったりしているんです。そこにはアートの本質的な力があると思います。アメリカ人が原爆を直視できないことはもう分かっていることなので、そこを描写するよりも、もう少し拓けた人を見つめて、彼らに何が見えるのかを聞く構成にしました。

>映画として一本筋が通っている感覚はそういう部分なんですね。

最後まで構成には時間がかかりましたので、そこが分かっていただけると嬉しいですね。ドキュメンタリーと言うよりも映像小説に近いです。
ただ、インタビューの中での日系カナダ人の方の強制収容の経験談や、韓国人の方の日本の着物を着させられていたことへの屈辱とか、スペイン内戦の話の中に、メッセージ性は垣間見えるかもしれません。

>それと、この美術館が素晴らしいですね。

そうでしょう。本当に素敵なんですよ。スケールも大きくて。トーテムポールがまさしくそうですが、美術館そのものに聖なる何かが宿っているのかもしれませんね。

>音楽も印象的です。

NY在住の日本人なんですよ。普段やっているのはアバンギャルドなんですけど、この映画ではそこは求めませんでした(笑)。トーテムポールが夜に話すとしたらどんな感じになるだろうというテーマで作ったパーカッションとかは雰囲気が出ていると思います。

>物撮りしてるのかなと思ったら歩く人の影が映っていたり、印象的な映像が多いです。

あの場面はADを歩かせました。だからドキュメンタリーじゃないんですよね。カメラマンの山崎さんもフィクションとドキュメンタリーの境界線がよく分かっているので、趣旨を理解して撮影してくれました。

日本の学校の子たちが出てくるシーンが印象的です。

あれは奇遇なんです。広島の女子高生たちですけど、あの美術館は観光の名所なので、本当は広島の写真ではなくトーテムポールを観に来ていて(笑)。校長先生に体当たりで趣旨を話しに行って、館内の別のところにいた撮影隊もあわてて駆けつけて記念写真を撮る、という不思議なことが起きました。石内さんからは後で「呼んだんだね」と言われましたけど、実際には偶然ですし、それこそ広島の持つ何かの力が呼び寄せたのかなと思います。私も石内さんも奇遇とか出会いといったものに対して素直になれますので。あの時は石内さんの通訳をしていてとくにインタビューをしていなのですが、映っている子の表情を見た方がずっと面白いと思います。彼女らもマイクを突きつけたら緊張するだろうし、何よりも何の説明もなく女子高生たちがあの場所に集合していると、被曝して亡くなったのは60数年前の彼女たち、という象徴になります。でも、あのタイミングでチェロとかバイオリンが鳴ると“オーマイゴット”(笑)。だからあの場面ではマンドリンが鳴っているんです。編集と音楽の力によるところは大きかったですね。
彼女たちが現れてから、さらにマジカルリアリズムと言うのか、撮影した10月のバンクーバーはほぼ雨と霧なのに、撮影中ずっと晴れていて、素晴らしい夕日にも出会ったの。それで山崎さんをあわてて呼び寄せて撮影したのが、美術館に夜が訪れるシーンでした(笑)。

監督が映画作りで大事にしていることは?

まず最初にルールを決めることです。『TOKKO/特攻』の時はお客さんが混乱しないように誰が歴史を語り誰が記憶を語るのかをはっきり分けるようにしました。旧特攻隊員は自分の体験を語りますけど、歴史学者ではないので、そういう役割を明瞭にすることですね。『ANPO』の時はナレーション無し。今回と同じくアートの断片を通して歴史を語るようにしました。アーティストは作品のことは覚えていても歴史のことは割と曖昧だから、歴史を語る部分にはちゃんと2人のジャーナリストに入ってもらいました。そして今回はアーカイブ素材無し、チェロ、バイオリン無し、主役は石内さんではなく作品、というルールでした。最初からルールを決めておくと必要なものが分かるので撮りやすくなりますが、確信と覚悟が必要ですね。

監督が映画を作るきっかけは何だったのでしょう?

日本育ちで、日本の小学校で日本の戦争と原爆をアメリカ人として学んだことです。アメリカ人の勝利の歴史と日本人の敗北の歴史のギャップが大きくて、同じ人間同士が戦った割りには聞く話が全く違っていたので、真実が何であったのかを映画を通して自分なりに模索して描写しようということですね。

リンダ・ホーグランド監督の“モットー”をお聞かせください。

いつも誰か目撃者はいるということです。今回の日系カナダ人も歴史の目撃者だし、『ANPO』では5歳の女の子が米軍のトラックに轢かれたのをあるカメラマンが撮影しましたが、それは隠れて命がけで撮ったものです。とくにアーティストはそれをアートにして残します。チェコの詩人が「詩人はいつまでも覚えている。詩人は殺せても詩は殺せない」といった感じのことを言っているのと同じです。権力者が悪いことをしていると、結果的にとんでもないことをして捕まったりするのは、誰も見ていないという錯覚なんでしょうね。

ではOKWaveユーザーにメッセージをお願いします。

この『ひろしま 石内都・遺されたものたち』はドキュメンタリーではなく映像小説です。映画館に足を運んでもらって、一種の映像付きのレクイエムを体験してください。他にはない映画、五感で感じられる作品です。全部美しい映像なので、そこを感じてください。ただ、もしかすると写真と映像を通して自分の中の広島のイメージがほんの少し変わるかもしれません。怖くなくなるかもしれません。広島に行ったことがない方は、この広島を観たら広島に行く勇気が湧くかもしれません。私は、広島が悲惨な目に遭った後に、中心部を平和公園として残しているのを誇りに思っています。アメリカでは9.11のあの場所をグランドゼロと言いながら今ビルを建て直しています。広島や日本人の方がよほど大人だと思います。

リンダ・ホーグランド監督からOKWaveユーザーに質問!

あなたの広島のイメージは何ですか?
私は日本の教室で、唯一のアメリカ人として、
クラスメートの視線を浴びたとても嫌な記憶から抜けだしたくて、
この映画を作りました。

Information

『ひろしま 石内都・遺されたものたち』
岩波ホールにて緊急上映 2013年7月20日~8月16日、ほか全国順次公開

広島の被爆をテーマに撮影した写真展が、2011年10月14日から2012年2月12までカナダ・バンクーバーのブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)人類学博物館で開催された。撮影したのは日本を代表する女性写真家の石内都。2007年に撮影のため初めて広島を訪れて以来毎年撮影している写真の中から、今回の展示会のために用意されたもので、東日本大震災直後に撮影した作品7点を含む48点が展示された。被写体は被爆し亡くなった人々の遺品たち、花柄のワンピース、水玉のブラウス、テーラーメイドの背広、壊れたメガネ…。
本作はその模様を、日本映画の字幕翻訳家でもあるアメリカ人のリンダ・ホーグランド監督(『ANPO』)が1年以上にわたって密着したドキュメンタリーである。石内都の「なぜ自分がヒロシマを撮るのか」という思いと、作品を受けとめたカナダの人々から知らされる様々な事実。カナダの先住民と広島に落とされた原爆の思いがけない接点。会場に立つ人々の心の動揺。被爆した人の死を初めて実感し呆然とする人、遺品のワンピースを着ていた少女に思いを寄せる人、祖父が原爆製造に関わっていたと告白する人、広島で出会った亡き日本人の妻を偲ぶ元兵士。写真に触発された人々の思いが重なり、ひとつに織り成されてゆく。
「広島、長崎の被爆を語り継ぐために、芸術が出来ることは何か。国境を越え、歳月を超え、この事実をどう語り継いでゆくのか」。本作はヒロシマが今日の世界に投げかける普遍的意味を、改めて我々に問いかけてくる。 数々のドキュメンタリーを撮影し、『誰も知らない』など是枝裕和作品の撮影監督としても知られる山崎裕が撮影を担当。

監督:リンダ・ホーグランド
撮影:山崎 裕
音楽・演奏:武石 聡 永井 晶子
写真家:石内 都
配給:NHKエンタープライズ
配給・宣伝協力:Playtime

http://www.thingsleftbehind.jp/

Profile

リンダ・ホーグランド (Linda Hoaglund)

映画監督・プロデューサー・字幕翻訳家
アメリカ人宣教師の娘として京都に生まれ、山口、愛媛の小中学校に通う。エール大学を卒業後、ニューヨークをベースに活動。1995年以降、字幕翻訳者として宮崎駿、黒澤明、深作欣二、大島渚、阪本順治らの作品を始めとする200本以上の日本映画の英語字幕を翻訳する。2007年、映画『TOKKO/特攻』(監督:リサ・モリモト)をプロデュース。2010年には長編ドキュメンタリー映画『ANPO』で監督デビュー。同作品はトロント、バンクーバー、香港など多くの国際映画祭で上映された。本作が監督第2作である。

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