OKStars インタビュー

Vol.304 映画監督

白石和彌

OKStars Vol.304にはベストセラー・ノンフィクションを映画化した『凶悪』の白石和彌監督へのインタビューをお送りします!

映画の話の前に、この事件を暴いたノンフィクション『凶悪 -ある死刑囚の告発-』についてのご感想をお聞かせください。

世界的に見ても稀有な結末ですよね。ジャーナリストが調べて記事にしたことで警察権力が動いて犯人が捕まるということはなかなかないですし、そういう意味でもすごい事件だと思いました。

では映画化のオファーを受けた時はどう感じましたか?

オファーを受けてあらためて原作のノンフィクションを読んでできるかどうかを考えた時に、こういう結末ですから下手をするとジャーナリストが勝利するヒーロー物になってしまうので、それだけでは映画にならないし、そういうものはやりたくないと思いました。だったら何をこのジャーナリストに託せば映画になるのか、率直に難しいなとは思いました。

難しさも感じられた中で“家族”にフォーカスしたきっかけは?

原作自体がある種の家族の話だと感じました。映画の中に出てくる電気屋の一家はお金を得るためにお父さんを売り渡します。そこでは家族が崩壊していますよね。他の殺されてしまった独居老人も家族や社会から縁を切られて孤独な状態でした。一方で凶悪な2人は自分の小さな子どもや情婦や舎弟も含めて、1つの家族だと言って強固な関係を作っていきます。その対比が興味深かったので、この映画では主人公である藤井にも家族の話を入れようとしました。痴呆を抱えたお母さんがいて施設に入れるかどうか悩んでいるという、家族の在り方のターニングポイントを描くことで、三者三様の凶悪な事件の裏に潜む家族というものを見せようと考えました。

その藤井役の山田孝之さんをはじめ、キャスティングも見事ですね。3人に期待したところは?

藤井は事件の真相に迫るに従って見たことの無いものを覗き見ることになります。それは観客と一緒に覗き見ることでもあるので、事件そのものの描写もまた誰も見たことがないようなものにしたいと思いました。ピエール瀧さんとリリー・フランキーさんのことは皆さん知っていると思いますが、この映画で見せる顔は誰も見たことがないと思います。この2人が楽しそうに人を殺していく様なんて見たことがないですよね。そこは振りきって演じてもらいたかったし、そこが楽しそうであればあるほど、おぞましくもあるなという計算はありました。

>藤井の変化も面白いです。

そこの難易度は高かったです。途中で過去の話になるので、藤井が画面に出なくなりますよね。主人公が途中で全く出なくなるのは映画作りではやっていけないことなんですが、そこは山田さんに説明して、その出ていない間を経た藤井の変化を山田さんの芝居から滲み出てくるようにしてくださいとお願いしました。ただ、細かい演出というよりは、事件そのものの社会の中での在り方とかを説明して、あとは山田さんが細かく計算して作っていただきました。

事件が起きる現場のロケーションがとても寂しい場所ばかりですが、そこはねらったのでしょうか。

撮影前に実際に事件が起きた場所を一通り見て回りました。その時に感じた空気感を元にロケハンをしました。これらの事件から感じたのは土着感の無さです。その土地だから起こるべく起こったというのとは違って、老人社会とか福祉が行き渡っていないというようなところから起きた事件だと感じました。それと、東京から車で30分も行けばどこにでもありそうな場所なんです。誰しも一度は行ったことがあるような場所で、林や木々の陰になっているような、風が荒んでいるようなところで構成できたらいいなと思いました。

>作った映像ではなくて実際にこういう光景だと思うと日本大丈夫?って思いました。

実際、表に出ていないだけでこういう事件はたくさんあるんだと思います。

撮影中のエピソードなどお聞かせください。

リリーさんはオファーして台本を読んでいただいた時に、「この木村はひどいやつだね。でも、飄々と人を殺していくと映画としては面白くなるね」と仰って、凄惨なシーンでも自然体で演じているようでした。なので、どんな役柄でも自然体で演じられるすごさを感じていましたが、撮影終盤くらいになった時にリリーさんが「昨晩飲みに行って店のマスターとついつい“じゃあそいつぶっこんじゃえよ!”とか言ってしまって、木村のキャラクターが抜けないんですよ」て仰っていて、やっぱりのめりこんでしんどいところがあったのかなと感じました。ピエール瀧さんも酒を飲ませて電気屋のお父さんを殺すシーンで、リリーさんや殺される役のジジ・ぶぅさんとも普段からよく飲む間柄とのことで、普段楽しく飲んでいる感じで演じていましたけど、撮影後はぐったりしてました。「楽しんで演じた分、大切なものを無くしちゃったかな」って仰られていて。やはり暴力は、台詞にもある「車の両輪」という部分が象徴的で、一度転がり始めると止めるタイミングを失います。いじめもそうだと思いますけど、ひとりだけだと推進力はありませんが、2人、3人になった時にもっとエスカレートするんだと思います。もっと大きな話になると戦争もそういうところがあると思います。一度動き出すと止めるのが難しいというところは、撮影しながら感じました。

ラストの木村が藤井に言う台詞が強烈なんですよね。最後に冷や水をかけられるというか…。

そこは自分自身に向けたところもあります。この脚本を構築していく中で、僕自身の中にも凶悪さみたいなものを見つけてしまったんです。例えば、ワイドショーとか新聞、雑誌も事件を扱いながら、純粋なスクープが毎日あるわけではないので、視聴率や購買数とかを意識して段々とエンターテインメントのような扱いになっていきますよね。そういうのを見てマスコミとしての矜持はないのかと僕自身思うこともありました。そこは藤井が所属する編集部を使って問題提起もしましたが、いざやり始めてみると、僕自身がこの映画を作る上で、いろんな人に見てもらえるように面白くしようとしていることに気づいたんです。結局自分も手の平で踊らされているような感覚になりました。それと、裁判員裁判が始まってから刑罰がむしろ厳罰化しているように思いました。本来開かれた裁判にするはずのものが厳罰化に進んでいるのはどうなのかなと。それで自戒も込めてのラストシーンとなっています。この映画を楽しんでもらいたいですけど、おそらくお客さんも凶悪な犯人に対して藤井と同じ感情を持っていると思うので、お客さんに向けてのラストシーンにもなるかなと思います。

今回の撮影を通して新たに気づいたり発見したことは?

人間の存在の不思議さを感じました。凶悪なことをしている人にも愛を注ぐ対象がいたり、正義だと思っている人も家庭を顧みなくて迷惑をかけていたり、白黒分けられる存在はひとりもいないと思いました。みんな灰色の部分で正解の確信を持たないまま進んでいるのかなと思いました。社会が進んでいる道に誰も確信が持てていないのかなとも思います。この前の選挙も自民党が勝ちましたけど、投票率は半分以下ですから、本当に世の中で自民党が支持されているか分からないですし、それで物事が進んでいるのはものすごく灰色の状態だと思います。僕らの存在や社会の進む方向を誰がジャッジしているのか、すごく曖昧に感じましたし、そう思っていることも滑稽なことなのかなとも思いました。

映画監督として、今後の展望は?

ジャンルにとらわれるつもりはありません。まずは面白いものを作っていきたい気持ちが根底にあります。ただ、日本のエンターテインメントはどこかで間違っている方向に進んでいる気がしています。映画の作り方も変わってきていて、今は社会の闇を隠して映画を作っている気がします。大金を投じて映画を作るのなら、人間の存在ってなんだろうと掘り下げていきたいし、そうしていかないと本来映画は作れないはずです。でもそれが無くなってきていて、純粋培養された映画監督という存在自体がいまや絶滅危惧種です。異業種の方やTV監督で才能のある方がどんどん出ていますから。映画監督が必要とされていないと感じる一方で、絶滅危惧種としてその中で踏ん張っていきたいし、エンターテインメントを作りながら映画本来の強さを持っていきたいと思います。

白石和彌監督の“モットー”をお聞かせください。

映画作りの上でのモットーは、弱者を描きたいということです。若松孝二監督の元で助監督をしてきて、若松監督がずっと弱者の視点で作ってきたので自然と身につきましたし共感もしています。それと今村昌平監督の映画が好きですけど、今村監督の作品もそうですし、そういうところを大事にしていきたいなと思います。

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Information

『凶悪』
2013年9月21日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

雑誌ジャーナリスト・藤井に託された、死刑囚からの手紙。そこには驚愕の内容が記されていた。
「自分は死刑判決を受けた事件の他に、誰にも話していない3つの殺人に関わっています。そのすべての首謀者は、自分が“先生”と呼んでいた男です。そいつが娑婆でのうのうと生きているの が許せない。この話を記事にしてもらい、先生を追いつめたい。」
“先生”と呼ばれた男。死の鍊金術師。史上最悪の凶悪事件とその真相とは。

監督:白石和彌
出演:山田孝之 ピエール瀧 池脇千鶴 リリー・フランキー
原作:新潮45編集部編『凶悪 -ある死刑囚の告発-』(新潮文庫刊)
監督:白石和彌 脚本:高橋泉、白石和彌
配給・宣伝:日活

http://www.kyouaku.com

©2013「凶悪」製作委員会

Profile

白石和彌

1974年12月17日生まれ。北海道出身。
1995年、中村幻児監督主催の映像塾に参加。以後、故・若松孝ニ監督に師事し、フリーの演出部として活動。若松孝ニ監督『明日なき街角』(97)、『完全なる飼育 赤い殺意』(04)、『17歳の風景 少年は何を見たのか』(05)などの作品へ助監督として参加する一方、行定勲、犬童一心監督などの作品にも参加。監督・脚本を務めた初の長編作品『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10)を経て、本作の監督を手がける。

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