OKStars インタビュー

Vol.348 
映画監督/TVプロデューサー

風間直美

OKStars Vol.348はアメリカの介護施設で行われた認知症改善の取り組みを追ったドキュメンタリー映画『僕がジョンと呼ばれるまで』の風間直美監督へのインタビューをお送りします。

映画『僕がジョンと呼ばれるまで』の企画のきっかけについてお聞かせください。

仙台放送が1年に1回フジテレビの全国ネットで放送する「脳テレ」という番組を3年間担当していました。その番組は「脳トレ」ブームを生み出した東北大学の川島隆太教授が監修されていて、川島先生がアメリカで学習療法を臨床研究されるという話があったので、番組で取り上げようということになりました。日本の介護現場で10年間実践され、認知症への効果が出ている療法を、初めて文化も言葉も違う外国で行うのを見てみたいと思いました。そして、私たちも驚くほど皆さん改善されていたので、仙台放送さんが映画にしようと。仙台放送は認知症に早くから注目し、様々な番組を作ってこられていたので、映画はまさに集大成。番組のコーナー企画から映画へと話は大きく膨らみました。

学習療法はアメリカでもうまくいくと思っていましたか?

当初は番組企画でしたので、放送までの3か月でどれほど改善が見られるのか、心配な面もありました。私の祖父母は認知症にならずに過ごしていましたので、認知症に対して情報は知っていても、実感はありません。これまでに川島先生と取り組んでいた番組作りも、脳を活性化させるという方向でしたので、認知症のドキュメンタリーを作る事は初めてでした。ですので、まずは認知症の勉強から始めて、知識としては理解しましたが、自分なりの感想は持たずにアメリカでの取材を始めました。学習療法がうまくいくのだろうか、という視点で取材をしていたので、予測に基づいたドキュメンタリーになることなく、私自身びっくりしながらの取材になりました。
映画の案内人のジョン君も認知症の知識はありませんでした。彼は施設での学習療法の記録係ですけど、もともと施設修繕の担当者だったので、認知症になったら怖いよね、くらいの感想しか持っていない、私と同じくらいの意識レベルでした。施設の方たちが変わっていくのを目のあたりにして、ジョン君もそれを受け入れていましたので、彼を私の目として、映画を描いていこうとしました。ジョン君にお願いしたのは一つだけ。「Do you know what my name is? (僕の名前を知っていますか?)」を学習者と話す時に聞いてもらうだけ。そのフレーズを映画の軸にして撮影を進めていきました。取材をした認知症の方たちが、歌の会に参加するようになったり、編み物を始めたり、お化粧をするようになったり、そういったひとつひとつが大きくてびっくりさせられる連続でした。ジョン君のナレーションはまさに彼の感想そのものですね。

学習療法に参加された皆さんが改善されたのでしょうか。

今回臨床研究に参加された方の平均年齢が83歳なので、体調面の都合で途中でやめてしまう方はいましたが、最後まで続けられた方は大なり小なりありますが、皆さんうまくいきました。数字が全く読めなくなっていた方が足し算をできるまでに回復していましたし、良くならないまでも、それ以上症状が進まずにいられた方もいました。川島先生自身もすごく驚いていました。

アメリカの施設自体は日本と違いましたか?

日本の施設を詳しく知っているわけではないので比較はできませんが、アメリカの施設は皆さん個室ですし、個人を尊重していました。認知症の方を子どものように扱ってしまいがちですけれど、介護の方は認知症の方をきちんと年上の方としてお話ししたりしていました。また映画の中の施設はとてもきれいなのでよく聞かれるのですが、あの施設はお金持ちの方の施設ではなく、本当に一般の料金での施設なんです。高額な施設も見学に行きましたが、そこはゴルフのコースなどもあるような日本では想像もつかないところでした。

学習療法は、きちんとコミュニケーションをとりながら行うもののように見えましたがいかがでしょうか。

コミュニケーションが一番重要な位置を占めていますね。読み書き計算をしていただくことを通じてコミュニケーションを取るんです。ご家族の方にお伺いすると、皆さん認知症になる前はとっても社交的でボランティアに勤しみ、明るい方たちだったんです。けれど、年々、友達が減っていったせいで塞ぎこんで、認知症が進行していったという人もいました。今回印象的だったのルームメイトを亡くされて、認知症が進行した方がいらっしゃったのですが、一緒に学習療法を受けるパートナーととても仲良くなられてから塞ぎこむ症状が軽減され、6か月後には歌の会にも出席するなど、本来の社交的な性格を取り戻された方がいらっしゃいました。ある日スタッフが面倒を見ていた入居者から『「人生は一度なんだから楽しくやりなさい」って、初めて話してくれた』と泣きながら語ってくれた事がありました。そんな小さなことの喜びの積み重ねが、入居者やスタッフの絆を強くし、モチベーションになっているのだと思います。

その後の様子はいかがでしょう。

臨床研究の終了後も取材をしたオハイオ州の施設では学習療法を継続することを決められました。今ではさらに多くの方が参加されているようで、スタッフは新たな驚きと喜びが毎日あると、メールで知らせてくれました。今では参加者の数も多くなり、新しく学習療法の部屋も作っているようです。

番組でも取り上げられたそうですが、反響はいかがでしたか。

番組では取材の一部を10分程度取り上げましたが反響は大きかったです。取材した施設にも放送したものを送ったのですが、介護施設の方が集まる会議などで流したそうで、そちらでの反響も大きかったそうです。薬などを使わずに認知症が改善されていくことと、施設のスタッフとのコミュニケーションがどんどん深まっていくので、他の施設でもぜひやりたいという声が出ているそうです。

学習療法の導入は難しいのでしょうか?

トレーニングは必要ですが、やり始めれば誰にでもできると思います。会話のきっかけになるツールとして日本ではご家族でやられている事例もあります。アメリカでもオハイオ州で広がり始めているそうです。この映画ができたことも大きいのかなと思います。どのような成果があるのか、目で見た方が分かりやすいというところはあります。認知症は世界共通の問題ですから、もっと多くの方が学習療法を知ってもらえたらと思います。

認知症の皆さんの一番改善された部分は何でしょう。

身だしなみがとくに皆さん改善されましたね。髪を自分で整えたり、着替えができるようになったり、お化粧をしたりネイルもやりたいと言い出したり。ポーチを下げてヒールを履いて歩き出した時には、むしろ体力的なところで心配してしまいました(笑)。そんな皆さんを見られて良かったです。最初にお会いした時には、無表情で会話もできなかった方が、見た目も変わって、会話もできるようになったのでびっくりしました。また今回驚いたのは学習者の方々だけでなく、ご家族にも変化が見られたことです。入居者のエブリンさんの娘さんは、お母さんと接している時、笑顔が多くなりました。子どもにとって親が認知症を患っていることを理解はできても、どんどん進行していく症状に心がついていかないものです。けれど学習療法によって、失われてしまった時間を少し取り戻し、進行を和らげることができる。これは私なりに感じたことですが、ご家族にとって取り戻した時間というのは、最期の時に向けての心構えの時間ではないかと。「もう一度、自分の背中を押すことばをかけて欲しい」「思い出のアイスクリーム屋に、もう一度行きたい」。そんな何気ない日常をもう一度叶えてくれる、それが学習療法なのだと思います。

映画祭での受賞についてはご感想をお願いします。

映画を作ることが初めてだったので、それが映画祭に初めて出品して受賞できて、ラッキーだったと思います。アメリカンドキュメンタリー映画祭とクリーブランド国際映画祭とは数日しか開催日程が離れていなくて、続けて行くことができました。クリーブランド国際映画祭では3日間の開催期間中に上映館が5館に増えて、毎回行列を作って観ていただけました。また上映後はスタンディングオベーションを頂けるなんて思ってもいなかったので、本当にびっくりしましたし、観客の方が自分の感想を私たちに伝えようと行列を作ってくださるなんて、想像もしていませんでした。舞台が海外なので、日本風ではなく海外ドキュメンタリー風に作ろうという自分なりの挑戦があったので、海外の映画祭で上映したことで受け入れられた気がしましたし、TVではなかなか肌身では感じられない観てくださる方の反応が見られて、映画の良さも実感できました。

>映画での表現はTVと比べていかがでしたか?

長さの点で自由でしたね。82分あるけどまあいいや、と(笑)。それと明るい作品にしようと思ってそうできたのが良かったです。日本では認知症は暗く扱われがちですが、入居者は学習療法のおかげでどんどん社交的になっているし、施設の方や家族はとても前向きですので、あえて認知症の症状から現れる被害妄想や悪態などといった面は映像には加えませんでした。「孫の名前を忘れてしまう」といった事実ほど悲しいものはありませんし、明るさの裏にある悲しみは、認知症の方を介護する人なら誰でも知っている事ですから。この映画のスタイルであるからこそ、海外の映画祭で評価を受ける事ができました。アルツハイマー協会の方からは「この映画は認知症の介護であるべき姿を正しく捉えている」と、認知症を前向きに捉えた映画だからこそ広く観てもらいたいと仰ってくれました。けれどそもそも日本での上映を考えていなくて、仙台放送の太田さんとは映画祭への出品しか当初は考えていなかったので、上映にもびっくりしています。

日本での上映についてはいかがですか。

人間が長く生きられるようになったからこその病気ですし、認知症への関心は高いのだろうと思います。自分自身この映画を作って、両親との関係を改めて考えさせられました。病気になった時、認知症になってしまったら、そんな時に対しての自分の中で心構えができた気がします。この映画は認知症の全てを描けているわけでありません。けれど今や認知症が世界共通の課題であるからこそ、最期の時に一歩一歩近づきながらも、自分らしさを取り戻していく学習者たちの姿や、介護をする方々の温かさや笑いの中に、一片の希望を見出してくれたらと願います。

では最後にOKWaveユーザーにメッセージをお願いします。

この映画は認知症の改善がテーマでありますが、裏のテーマは家族の時間です。
私はこの取材を経験したおかげで、親によく電話をするようになりました。親の事って知っているようで知らないものだと改めて気づきましたし、意外に自分についてもあまり最近は話していないなと。認知症でなくても、いつかは親を介護する時がきます。その時に慌てないよう、もう一度、親との関係を考えるきっかけになってくれたらと思います。

OKWaveユーザーに質問!

皆さんは認知症についてどんな印象をお持ちでしょうか。
また、自分がもし認知症になってしまったとしたら、家族と施設とどちらに見てもらいたいですか。

Information

『僕がジョンと呼ばれるまで』
東京都写真美術館ホールほか全国順次公開中

平均年齢80歳以上のアメリカ・オハイオ州にある高齢者介護施設。ここに暮らす多くの方が認知症です。スタッフのジョンは施設で暮らすおじいちゃんおばあちゃんに毎日たずねます。「僕の名前を知っていますか?」でも答えはいつも「いいえ」。何度名前を伝えても覚えていません。そんな彼女たちが挑戦したある取り組み(※)が、彼女たちの毎日を変えていきます。それはスタッフと一緒に、読み書きや簡単な計算などをすることで認知症の改善を目指すというものでした。
エブリン(93歳)は認知症と診断されて2年。自分の名前も書けず、ジョンとの会話もかみ合いませんでした。しかし彼女に大きな変化が表れます。趣味の編み物を再び始め、笑顔でジョンに話しかけるようになりました。そして、かつてお得意だった辛辣なジョークまで復活したのです。 そのことはジョンやスタッフ、そして家族をも笑顔に変えました。この物語に登場する人たちの笑顔が、私たち誰もが抱える不安を希望に変えるヒントになるはずです。

監督:風間直美 太田茂
製作・著作・配給:仙台放送
配給協力:東風

http://www.bokujohn.jp
http://www.facebook.com/bokujohn

©2013仙台放送

※「脳トレ」ブームの立役者の東北大学・川島隆太教授と、公文教育研究所、介護現場の協力によって生まれた認知症改善プログラム「学習療法」のこと。認知機能が衰えはじめた高齢者とスタッフが、対面でコミュニケーションを取りながら、簡単な読み書き計算を行うもので、日本国内では1万人以上が実践しています。

Profile

風間直美
1973年、新潟県生まれ。
共同テレビジョン/演出・プロデューサーとしてドキュメンタリーやバラエティ番組、国際共同制作番組を手がける。「ハイビジョン特集京都茶の湯大百科」(2008)、「浅田真央17歳の伝説」(2008)、「ハイビジョン特集私たちのラストオペラ」(2010)、「新日本風土記」(2011)、「セロのマジカルバケーション」(2012)、「ノバク・ジョコビッチの覚醒」(2012)、「柿谷曜一朗 覚醒の時」(2013)他、和田アキ子デビュー40周年記念DVD「Akiko Wada Power & Soul」(2008)、浅田真央の初DVD「20歳になった氷上の妖精」(2011)を演出。仙台放送では「脳テレ」(2010~2012)、「アメリカ感動ロード」(2012)を手がける。

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