OKStars インタビュー

Vol.400 映画監督

イ・ジュヒョン

OKStars Vol.400は韓国を代表するキム・ギドク監督の“秘蔵っ子”イ・ジュヒョン監督が登場!長編初監督の話題作『レッド・ファミリー』についてのインタビューをお送りします!

韓国と北朝鮮について2つの家族が話し合うシーンがありますが、韓国では南北の歴史についてどんな教育をされているでしょうか。

私が小学校、中学校で教育を受けた当時の韓国は軍事政権だったので、「滅共」という言葉に象徴されるようなイデオロギー教育をかなり受けました。それこそ金日成の顔を豚みたいに描いたプロパガンダ漫画を見せられたりもしました。北朝鮮の実情はずいぶん後になってようやく知ることができましたが、私の中の何処かには当時の教育によるものが残っているかもしれません。今はそういった思想教育をすることはなくなりました。そう考えると、当時の韓国も北と同じようなことをしていたと言えるかもしれません。ですので、今の世代は自由になったなと感じます。映画の中の高校生のチャンスとミンジは思想教育を受けていない世代なので、お互いに反感がないんです。しかもオープンマインドなので、そういった世代にこそ希望を託せるのではないかと思ってこの映画を撮りました。台詞の中でも、北と南についての意見の衝突がたくさん見られましたが、それは全て大人の発言ばかりで、若いチャンスとミンジのふたりは「当事者の私たちが話し合えばいい」という考え方です。そう思うと、我ながら2つの家族が話し合うシーンは名シーンになったと思います。もし他の人がこの映画を撮っていたら思想の対立を強調した映画になっていたかもしれません。

では、この映画を作る上で気をつけたことは?

体制という枠の中で葛藤する人間に焦点を当てようと思いました。この映画の中では北の工作員による偽装家族が出てきますが、彼らは家族を演じながらも、心の中では情も感じていたはずですが、心の中にしまったまま、なかなか表には出せません。また、2つの家族の家の間には小さな低い塀がありますが、なかなか両家はその塀を超えられないということで、両家の間には見えない壁があることを表したいと思いました。誕生パーティーのシーンに象徴されるように、だんだんとその壁が崩れて、やがては人間がその壁を乗り越えるんだということを表したいと思い、また、体制の上に人間があってはいけないということを伝えたいと思いました。究極には体制の犠牲になる人を描きたいと思いました。世界のあちこちで様々な戦争や紛争が起きています。それ以外でも皆さんが何らかの形で体制の犠牲になっている現実があると思います。そこに何らかの疑問を提示したいと思いました。

キム・ギドクさんから最初に脚本を受け取った時から、実際に撮る段階では、どんな話をしましたか?

キム・ギドク監督はこの作品のシナリオを書く時はおそらく他の作品とは違う心構えで書かれていたと思います。キム・ギドク監督は「南北を描く時は興味本位ではダメだ」と仰っていました。興行のことや娯楽性だけを追求してはいけないし、だからといって南北のテーマだけにこだわってもいけない。南北統一を祈る気持ちで映画を撮らなければいけないとも。私も全面的に同意見で、キム・ギドク監督の南北統一を願う気持ちと同じ心構えでこの映画に携わることになりました。
キム・ギドク監督のお父さんは朝鮮戦争で銃弾を2発受けて、その傷跡がずっと残っていたそうです。ですのでキム・ギドク監督にもかなりのトラウマがあったと思います。そんな監督の世代と、監督とは異なる世代の私とでシナリオの修正作業をしました。その時に重点を置いたのは人間味を加えるようなアプローチでした。最初はともすれば重くなりがちなテーマだったのが、決して軽くするつもりはありませんでしたが、笑いを含めた人間味を加えていきました。北から来たスパイであっても、情がありますし、笑うし、映画館やスーパーにも行くだろうし、そういった人間味やユーモラスな部分を加えていきました。実はキム・ギドク監督自身はとてもユーモラスな方なんです。ただ、監督自身は他の人とシナリオの修正作業をしたことがほとんどないので、周りの人たちが驚いていました(笑)。でも、本当に気があって、楽しく修正作業ができました。最初のシナリオよりも人間味が加わっていったので、主人公たちの哀しみがより際立つものになったと思います。

コミカルな演出がおもしろかったです。

ありがとうございます。
キム・ギドク監督について補足しますと、監督は若い頃に海兵隊に入っていましたが、海兵隊の思想教育はかなりきついんです。そんな中で5年間も勤務をされていたので、逆に南の思想教育がどんなものなのかを正確に知っている方でもあるんです。そんな監督だから、思想教育を打ち破りたいという気持ちだったそうです。そんなところでも私は気が合いましたので、この映画の監督を務めることができ、シナリオの修正作業も一緒にできたのかなと思います。

笑いとシリアスなパートのバランスが良かったですが、キャストの方々にはどんな演出をつけていきましたか。

今回演出する上で、笑いの部分と哀しみの部分のバランスをどう取るかが課題でした。どちらかに偏ってしまうと曖昧な作品になってしまうと思いました。シリアスすぎると思想や体制の方にばかり目が行ってしまうし、笑いばかりにしてしまうと興行成績を狙った作品のようになってしまいますので。この作品の笑いは北と南の家族の衝突による笑いです。面倒を見てあげたいけどそれができない時のような、人間味が出てくる時の笑いという位置付けでした。それと今回の映画の中で笑いが必要だったのは、観客の皆さんが登場人物に寄り添ってほしいという思いからでした。観客から、この人たちはなんでこんなことをするんだろう、と考えながら観ているうちに笑いに包まれて人間味を感じられると思います。そうなれば登場人物と観客の交流が生まれて、登場人物に寄り添えるんじゃないかと思います。笑いがあるからこそ哀しみが引き立ちますので、観客も他人事ではなく、自分の身近な出来事に置き換えてもらえると考えました。
キャストの演出では、キム・ユミさんのカリスマ性をどれだけ見せられるかにとくに気をつけました。キム・ユミさんが演じたベク班長は、最初はある意味、悪者のような役として出てきます。この時にキム・ユミさんにどれだけ怖さを感じさせられるかが大切でしたし、笑いのシーンでもどれだけキム・ユミさんが笑いを引き立てられるかが大事でした。まずはキム・ユミさんの演技のトーンを決めていき、そこから他の皆さんのキャラクターのさじ加減を決めていきました。偽装家族の夫役のチョン・ウさんはすごく優しい男で体制の中にいるのに怖がりということで、キム・ユミさんの動きに合わせた怖がり方のさじ加減をしたり、時にはユーモラスな姿を見せましたので、笑い担当な部分がありました。
撮影が始まって3回目くらいまではこちらもキャストも手探りでしたので何度も実験をしました。何テイクも撮ってみて、トーンを決めていきました。そこが定まってからでしたのでおじいちゃん役のソン・ビョンホさんと娘役のパク・ソヨンさんについてはそこまでの演出の実験はしませんでした。

この作品のようなスパイという存在など、どの程度調査をされたり、現実を反映させたのでしょう。

最近の事件の資料はなかなか表に出てきませんのでそこは調べられませんでしたが、表に出ているスパイが関わったとされる事件についてはほぼ全てをリサーチしました。スパイの人数は公表されていませんが、現在でも明らかにスパイが潜んでいるということは事実です。脱北者を装ってスパイを務めるという方が多いという話もあります。ただ、今回はスパイの調査自体は映画製作の上ではあまり役には立ちませんでした。大事だったのは、南にいるうちにだんだんと情が出てくるところを描くことだったので、北からの指令で工作活動を行うところなどは現実とはかけ離れているかもしれません。私自身はアクションも葛藤するシーンもたくさん入れたいと思いながら、人物像を掘り下げていきました。
実は撮影で大変だったのは家の中のシーンでした。閉じられた空間でしたので、観客の皆さんも息苦しさを感じてしまうと思いますので、家のシーンと外のシーンを分けて撮影していきました。殺害指令をこなせなかった夫の代わりにおじいさんが指令を達成したことで2人の友情が深まることや、指令での子どもを殺せなかったキム・ユミさんのベク班長と北に残した家族のために実行するミンジといったように、北からの指令が来た時にみんながどう動くかを見せるようにしました。お互いがそれぞれの本当の家族のために行動していたという流れになります。
実は今回の映画では脱北者の女性と男性が協力してくれました。台詞の読み合わせの時に来ていただいたり、北の方言を録音してくれましたので、キム・ユミさんはそれを聞いて口癖になるくらい練習していました。キム・ユミさんの北の方言がこれまでの北を描いた映画の中で一番上手という意見もいただきました。また、北での生活やどのように脱出してきたかの話も聞けました。一緒に脱出を試みた人が亡くなってしまったという話もありました。みんなが心動かされて、キム・ユミさんはずっと泣き続けていました。それを見て私はこの役はお任せできるなとも思いました。

OKWaveユーザーに質問!

日本と韓国では笑いのツボが違うと思いますが、この映画のどのシーンが笑えたか知りたいです。

Information

『レッド・ファミリー』
2014年10月4日(土)新宿武蔵野館他全国順次公開

レッド・ファミリー 仲睦まじい家族のフリをして任務を遂行する4人の北朝鮮スパイたち。彼らはケンカの絶えない隣の韓国人家族を「資本主義の限界」とバカにしていたが、偽りのない感情をぶつけ合う家族の姿に次第に心を動かされていく。やがて任務に、いや、人生そのものに疑問を感じ始めたスパイたち。そんな折、リーダーである妻役のベクは、夫役のキムの妻が脱北に失敗したと聞かされる。ベクは独断で手柄を立てキムたちを助けようとするが、逆に大失態を犯してしまう。母国に残された各々の家族の命と引き換えに4人に与えられたミッション、それは「隣の家族の暗殺」だった。全てを救うため、彼らが命を賭して打った切ない<家族芝居>とは!?
ラストに待つ押しつぶされるほどの衝撃と、声がこぼれるのを抑えきれない程の感動を、あなたは受け止めることができるか!?
衝撃的な問題作を放ち続ける鬼才キム・ギドクが、南北統一を心から願って書いたという脚本は、普遍的な家族愛を際立たせ、ストレートに胸をゆさぶる。「この先の世界を変える力を持つ」そう思わずにいられない特別な1本が誕生した。

監督:イ・ジュヒョン
製作、脚本、編集:キム・ギドク
出演:キム・ユミ、チョン・ウ、ソン・ビョンホ、パク・ソヨン

配給:ギャガ

公式サイト:http://redfamily.gaga.ne.jp/

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Profile

イ・ジュヒョン

イ・ジュヒョン
1977年生まれ。
フランスのヨーロピアン・スクール・オブ・ビジュアル・アーツで映画とデジタル・アートを学び、滞在中に様々な短編アニメやドキュメンタリーを製作。キム・具毒監督の作品に強く影響を受ける。映画『レッド・ファミリー』は、初の長編監督作品で、キム・グドク・フィルムで製作された。同作品は第26回東京国際映画祭でコンペティション部門にて観客賞を受賞。

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