OKStars インタビュー

Vol.425 映画監督

小林聖太郎

OKStars Vol.425は2015年1月31日公開の映画『マエストロ!』の小林聖太郎監督へのインタビューをお送りします。

『マエストロ!』を監督する際に、どのようなことをお考えになったでしょうか。

原作を一読した印象では、漫画としては面白いけど映画にするのはすごく難しいなと思いました。原作は楽器ごとの個人のストーリーがオムニバス的に連なっているので、30分の連続ドラマとかの方が向いているんですね。映画にするには、背骨になるような一本のストーリーを拵えつつ、群像劇的な原作の良さも拾いつつ作りあげないといけない。それに、たとえば原作ではクライマックスの「運命」の演奏は、見開きで竜が飛んでいる絵柄で表現されていますが、それをCGで再現しても漫画とは同じようには伝わらない。音も画も具体で作らないといけないけど、それはとてもハードルが高いことです。最初にお話をいただいた時は、自信を持ってやれる、というほど歯切れのよいスタートではなかったですね(苦笑)。

方向が見えたのは何がきっかけだったでしょう。

まずはオーケストラのことをもっと知らなければならないだろうと、今回の音楽を担当した上野耕路さんにクラシック音楽の講義をしてもらうことにしました。プロデューサー2人と脚本家と僕が生徒になったものの、上野さんにしてみると、我々が何が分かってないかが分からない、ということだけは分かった、というところからの始まりで(笑)。それこそ西洋古典音楽の歴史や総譜の読み方などの基礎知識から教わって、その間には実際のオーケストラや指揮者の方々を取材したり、半年くらい勉強をしてからプロット作りを始めました。はっきりとしたきっかけというよりも、取材やプロットを作る共同作業の中で自然と方向付けられていったと思います。

オーケストラを描く上で考えたこと、大事にしたことは何でしょう。

原作ではコンサートマスターである香坂が他のメンバーとは格の違う実力を持った奏者という設定ですが、映画では悩みを抱えた若きコンサートマスターが天道という指揮者と出会って、反発しながらも高みを目指し、ついに天籟を聴く、というのを背骨として、それに合わせて他のサブストーリーを選んでいきました。脚本を作りながら常に感じていたのは、主役は香坂や天道といった人間ではなく、音楽そのものだということです。

演奏をする松坂桃李さんやmiwaさんらキャスト陣にはどんなことを期待しましたか。

今回は自分だったら絶対に演じたくないくらい大変だったと思います(笑)。崖っぷちに追い込まれた時に俳優という人種が見せる集中力はとにかく凄いものだと。クランクイン1ヶ月前は絶望的な不安を感じていましたが、撮影が近づくにつれ、目に見えて上達していっている様子が各パートの俳優さんに見られました。キャスト1人につき、2人先生がついてくれたので、演奏シーンの撮影では僕の後ろに先生方が10人以上並ぶんです。それが幼稚園の運動会みたいで、皆が自分の教え子たちの自慢大会をしているんです(笑)。演奏シーンを見て涙ぐんでいる先生もいて、普段の撮影ではまずないような現場になっていましたね。全員台本よりも楽譜を読んでいる時間の方が長かったと思います。

キャストの方々とはどんな話をしましたか?

松坂くんに最初に会った時に「今回は大変です」と3回繰り返して言いました。その時は爽やかに「頑張ります」と答えてたんですが、練習するにつれ骨身に染みてその大変さがわかったと思います(笑)。松坂くんには撮影後にヴァイオリンをプレゼントしたんですが、ケースを開けると練習の悪夢が蘇ってくるそうで封印しているらしいです(苦笑)。でもmiwaさんや濱田マリさんなんかは、楽器を買って練習を続けてるみたいですね。現場的には初日に「おおいに混乱させて下さい」と言いました。現場が止まるんじゃないか、とか気にせず、細かいことでも気になったことは言ってくれ、と。そしたら数十人から連日連夜質問攻めで(笑)。後悔しました。

西田敏行さん演じる天道の描き方についてお聞かせください。

とくに前半の天道は、原作よりも胡散臭く見えるようにしたいと思いました。佐渡裕さんが指揮の監修についてくださったので、音楽的に間違いなく、かつ映画的に天道の胡散臭さやコミカルさも出るような指揮を佐渡さん、西田さんと話し合いながら作り上げました。 西田さんには、「未完成」本番での“笑顔”をヤマとするために前半は“悪い顔”でいてくださいとお願いしました。「こんなヤツとは絶対に一緒に音楽をやりたくない」と思うような天道であれかし、と。

クライマックスの演奏会のカメラワークが圧巻でしたが、その時の撮影についてお聞かせください。

撮影も勿論ですが、そこに至る準備に相当手間がかかりました。「運命」(交響曲第5番)も「未完成」(交響曲第7番)も全楽章を演奏すると30分前後の楽曲ですが、映画のクライマックスとしては、どうしてもそれぞれ5分程度には縮めないといけない。総譜を読み込んで一曲に聞こえるポイントを音楽チームに投げかけると「転調しているからダメだ」と言われ修正してもらったり、撮りたい人物が演奏していない部分だったり……。画コンテやビデオコンテで試行錯誤を繰り返しましたが、キャストも撮影場所も決まっておらず、芝居も全く見えない状態で画コンテを描くのは、なかなか大変でした。コンサートホールでの撮影は会場の都合で5日間しか押さえられなかったので、演出部と製作部で綿密に撮影順序などを練り上げて、全員の集中力で乗り切りました。

本作を通じて監督が発見したこと、気づいたこと、あるいは再確認できたことは?

クラシック音楽の良さ、とか色々あるのですが、現場的に言うとフィルムの良さですね。デジタル化が進んで世界的にフィルムで撮られる映画はどんどん減ってます。僕は今まで毎回フィルムで撮りたいと言っていながら、予算の問題などで実現できずにいたのですが、今回初めてフィルムで撮影できました。仕上がりの画が好みということも勿論あるんですけど撮影の現場が全然違いますね。 デジタル撮影だと、離れたところのモニターに人が集まって、カメラの前での芝居を直接見ている人がカメラマンと助手くらいしかいない時もあります。人間はやはり生身なので、大勢の目の前で芝居をするのとそうでない時とでは、どうしても芝居の熱も変わってきます。それに、モニターサイドでは分からないフレームの外側や、本番前後の微妙な空気を共有したいので、僕の場合デジタル撮影だとしてもカメラの横が定位置です。 それとあまり指摘されないのですがデジタル化されていちばんの弊害はラッシュを皆で見ることがなくなったことです。本当ならデジタルでもやるべきなのですが、なぜかここ7、8年はDVDが監督とキャメラマンなどに配られて各自がPCや自宅のTVで見ることが当たり前になってしまっています。 僕が助監督だった頃はまだフィルム撮影の時代だったので、地方ロケに行くと夜中に映画館を借りてそれこそスタッフ全員で撮った映像を見て、何が間違っていたかとか、次にどうするかといったことも全スタッフがいる場で行われていました。 そういった共同作業を助手たちが確認することは映画界のスタッフ育成の面からも必要だと思います。といっても今やフィルムで上映できる映画館が激減しているので、今回も上映用プリントは焼かれず、この世にデータでしか存在しない。大ヒットしたら5本ぐらいプリントを焼きたいですね。

小林聖太郎監督からOKWaveユーザーに質問!

オーケストラで演奏するなら皆さんはどの楽器がいいですか?
僕は音が好きなのでチェロを弾いてみたいです。

今回の撮影を通じて、ヴィオラやファゴットなど、あまり知らなかった楽器の音も聞くいい機会にもなりました。ぜひ、この『マエストロ!』を観て、生の演奏会にも行って、佐渡裕さん指揮のCDを聴くと素晴らしいと思います(笑)

Information

『マエストロ!』

2015年1月31日(土)より全国ロードショー

『繕い裁つ人』 若きヴァイオリニスト香坂のもとに舞い込んだ、解散した名門オーケストラ再結成の報。 だが、練習場は廃工場、集まったのは再就職先も決まらない「負け組」楽団員たちとアマチュア・フルート奏者のあまね。合わせた音はとてもプロとは言えず、不安が募る。 そこに現れた謎の指揮者、天道。再結成を企画した張本人だが経歴も素性も不明、指揮棒の代わりに大工道具を振り回す。自分勝手な進め方に楽団員たちは猛反発するが、次第に、天道が導く音の深さに皆引き込まれていく。だが、香坂だけは天道の隠された過去を知り、反発を強めてしまう。 そして迎えた復活コンサート当日、楽団員たち全員が知らなかった、天道が仕掛けた本当の秘密が明らかになる。

出演:松坂桃李 miwa 西田敏行 ほか
監督:小林聖太郎
原作:さそうあきら「マエストロ」(双葉社刊)漫画アクション連載
配給:松竹、アスミック・エース

公式サイト:http://maestro-movie.com/

(C)2015『マエストロ!』製作委員会 (C)さそうあきら/双葉社

Profile
小林聖太郎

小林聖太郎

1971年生まれ、大阪市出身。
1994年関西大学法学部政治学科卒業後、ジャーナリスト今井一の助手を経て、原一男監督主宰の「CINEMA塾」に参加とともに、TVドキュメンタリー「映画監督 浦山桐郎の肖像」の助監督を務める。その後、フリーの演出部として『ナビィの恋』(99)、『ゲロッパ!』(03)、『ニワトリはハダシだ』(04)、『パッチギ!』(05)、『雪に願うこと』(06)など多くの作品に参加。2006年、デビュー作『かぞくのひけつ』により第47回日本映画監督協会新人賞、第13回新藤兼人賞金賞、第2回おおさかシネマフェスティバル新人監督賞など受賞。11年には『毎日かあさん』(原作:西原理恵子)が公開され、第14回上海国際映画祭アジア新人賞部門最優秀作品賞、日本映画批評家大賞主演男優賞(永瀬正敏)、毎日映画コンクール主演女優賞(小泉今日子)などを受賞。
https://twitter.com/syoutarou33

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