話題の映画や作品等にまつわる、俳優や映画監督、アーティストら“Stars”へのインタビューと、彼らからの「質問」に「回答」できるOKWAVEの特別企画です。

Vol.501 映画監督 篠原哲雄

OKStars Vol.501は映画『起終点駅 ターミナル』(2015年11月7日公開)の篠原哲雄監督へのインタビューをお送りします。

Q 『起終点駅 ターミナル』映画化の経緯についてお聞かせください。

A篠原哲雄プロデューサーから2012年の秋くらいに原作を薦められて読みました。原作では主人公の再出発までは描かれていませんが、男と女の出会いによって人生が変わっていく作品だと感じました。僕も50歳を超えて何となく主人公を身近に感じるようになっていたのと、僕自身は罪深く罰を背負って生きているようなことはありませんが(笑)、覚悟を決めた男の話には興味を持って取り組めるかなと思って引き受けました。そこから脚本作りやキャスティングなどを始めました。

Q 短編小説からの長編映画化ということも含め、どこに力点を置こうとしましたか。

A『起終点駅 ターミナル』篠原哲雄冴子との出会いと別れがあってこその完治の話なので、映画の構成として過去を最初に描いてから現在の完治を描くという形になりました。それと、原作では完治との出会いで敦子が新たな出発をしていき完治のその後は余韻の中で感じさせるという終わり方をしていますが、完治自身が起点に立つということを映画では描きました。その出発の在り方は映画ならではの物語の運びになっているかと思います。その点は原作者の桜木紫乃さんも賛同してくださったので、短編小説の行間を描きながらの作品になったのではと思います。

Q 佐藤浩市さんの演じた完治が素晴らしかったですが、演出についてはいかがだったのでしょうか。

A『起終点駅 ターミナル』篠原哲雄僕が細かい演技指導をしたわけではなく、浩市さんが台本からさらに飛躍した完治の行動、かつ演じ手として自分の見え方を意識されての動きなどを提案してくださり相当面白くなったと思います。例えば冴子の店に同じ道を通って何度か通う場面では、最初は普通に歩いて行きますが、2回目以降は、逡巡がありながらも行ってしまうという心理を、浩市さんのアイディアで、タバコを吸って積もった地面の雪で消してから店に行く、という動きで表現していました。それについて浩市さんは、「完治の人物像の中に、戸惑いながらも行ってしまうという気持ちを出すことで後半にもつながるのではないか」と言っており、後半で完治と敦子の間に流れる感情との結びつきは演出側でも考えてはいましたが、俳優さんが直接そのように提案してくれたので、僕もすごく納得して撮れました。
浩市さん自身は躍動感のある方なのですが、完治を演じるために猫背にしてくれたりもしました。敦子を両親の家に送っていく場面では、思わず力強く走ってしまって「いまのでよかったかな」「緊迫している場面だから大丈夫ですよ」といったやり取りがありましたね。

Q 完治の料理の場面がしっかりと描かれていましたが、どういった狙いだったのでしょう。

A篠原哲雄完治はあえて自分の十字架を背負って生きていく選択をしたので、人付き合いもなくひとりで淡々と生きています。当然、食事も外食ではなく、自分で作りますが、そういう生き方で他にやることもなく、料理が生きがいになっているわけです。彼にとっては必然な日常とでも言いますか。自分のために作り自分のために食べる、ということが、敦子が介在することで変わっていきます。人に食べてもらえる喜び。これは大きいのではないかと思います。いくらを漬け込む場面では、顔はムスッとしていますけど、手は喜んでいるという(笑)、そういう食が人と人を結んでコミュニケーションを取っていくというのは、人としての自然な営みだと思います。

Q 敦子役の本田翼さんはこれまでにない役を演じたと思いますが、監督はどんなところに期待していましたか。

A『起終点駅 ターミナル』篠原哲雄本田さんは、今までは青春もののヒロインやラブストーリーの相手役が多かったと思いますが、佐藤浩市さんという日本を代表する俳優とガッツリと共演することは喜びだったと話していましたし、飛び込んでいく気持ちだったと思います。本田さんは根が素直だけど、どこか図太いというか、話を聞いていないように見えるときもあるけど、実はちゃんと聞いている。物怖じしないのがいいところです。現場でも態度が大きくて浩市さんに怒られたりもしていましたが(笑)、そこで萎縮せずに飛び込んでいくのが良かったですね。無邪気で欲深くないように見えるので、役者に対する固定観念のようなものもなく、素直に現場で自分を発揮できているんだと思います。覚醒剤を所持していて起訴された敦子役ということでは、いかにも悪いことをしていそう、というタイプに本田さんは見えないけれど、そういう方が現実感もあるのかと思います。

Q 完治と敦子のシーンはスムーズに進みましたか?

A篠原哲雄浩市さんは自分の演技プランが最初からある方なので、本田さんがそれに着いて行くために、何度もテストをする、ということはありました。それにだんだんと慣れていったようには思います。本田さんは人懐っこい方だと思いますので、完治に料理を作ってもらうシーンよりも、初めて完治の家にやってきて「人探しをしてください」と神妙に頼むところの方が作って演じていたと思います。自分から飛び込んでいくようなシーンはスムーズだったと思います。

Q 舞台となる釧路の雰囲気が映像によく醸し出されていましたが、監督は釧路の印象はいかがだったでしょう。

A『起終点駅 ターミナル』篠原哲雄僕らが選んだロケーションは、実は釧路であることをそれほど強調しているわけではありません。でも、自然に釧路らしさが出てきていると思います。たとえば、完治の家の外観はオープンセットを建てているのですが、釧路の街中ではいい家が見つからなかった結果なんです。車であちこち周りながら、ある坂道を走っている時に、ここに家を建てられる、それこそ北海道的な二軒長屋ができると北海道出身のプロデューサー、脚本家が直観的な意見をくれました。すぐに美術、撮影、照明の見地からも検証しオープンセットを建てることを決めました。実はあの場所は晴れていると遠くに海が見えたり、煙突のある家が先の方に見えたり、そういう何気ないところに北海道らしさがあるのですが、ロケの間は天気が変わりやすくて、夜には霧も出たりしたので、実際のところ撮影は大変でしたけれど。しいて言えば、世界三大夕日と言われる幣舞橋を浩市さんが歩いて行くシーンが最も釧路らしい場面かもしれませんね。

Q 繊細な心の機微を描いた作品ですが、画的なところで気にかけたところは?

A『起終点駅 ターミナル』篠原哲雄今回は街感よりも人物だと思ったので、浩市さんが自由に芝居をやれるようにと考えながら撮っていました。浩市さんは芝居の立ち上がりが早い方ですし、できるだけスムーズに撮りたいとこちらも思うわけです。料理のシーンでも2つのカメラで撮るなど、そういった取り組みが自然とできていました。
駅のシーンは乗客あっての鉄道だと思うので、始発前に短時間で撮ることを心掛け、事前に綿密な計画を立てた上で挑みました。そういう時の緊張感も画面にはさりげなく表れている気もします。
それと雪のシーンはVFXのスタッフが大活躍してくれました。ほとんど企業秘密ですが、美術部による作りの雪とVFXの雪が見事にマッチしていると思います。

Q 監督ご自身の好きなシーンは?

A篠原哲雄さりげない場面ですがザンギを食べながら敦子が実家のある「厚岸に連れて行ってください」と完治に頼むシーン。その時の敦子の本田さんはいろんなものが取れて素直に言えているんだなと芝居を見ながら感じられたので。本田さんを受け止めている浩市さんとのやり取りの成果が表れたのだと思います。それと、完治のところに電話がかかってきた後に、完治が敦子に「そろそろ家に帰った方がいいんじゃないか」と声をかけるシーンの敦子の寂しそうな顔とか、本田さんのさりげなさが出ています。駅前の車の中での完治と敦子の芝居はこの映画のキラーカットの一つでもあります。本田さんの芝居がいかに自然体でできてきたかを感じられるかもしれません。浩市さんの逆説的な愛情の示し方も見ものです。

Q篠原哲雄監督からOKWaveユーザーに質問!

篠原哲雄完治は料理を作るか、部屋で映画のビデオを観るくらいしか楽しみがない生活をあえて送っています。完治は映画が好きで何本もビデオを持っている設定にしていますが、完治が部屋でビデオを観るシーンでは、何を観ていて欲しいと思いますか?
僕らはあえて何を観ていたか分からないようにしていますので、完治が見ている映画を皆さんに決めて欲しいと思うくらいです。さあ、何が出てくるか楽しみです。

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■Information

『起終点駅 ターミナル』

『起終点駅 ターミナル』2015年11月7日(土)全国ロードショー

北海道の旭川で裁判官として働く鷲田完治のもとに、学生時代の恋人だった結城冴子が被告人として現れる。彼女に執行猶予付きの判決を与えた完治は裁判後、冴子が働くスナックに通い逢瀬を重ねるようになるが、かつて愛し合った男と女の再会の時間は限られていた。2年の北海道勤務を終え、妻子の待つ東京へ戻る日が近づいていた完治だったが、彼はすべてを捨てて冴子と共に暮らしていこうと決める。けれど、冴子はその想いに応えることなく完治の目の前で自ら命を絶ってしまうのだった。
それから25年。完治は誰とも関わることなく釧路で国選弁護人としてひっそりと生きていた。それはまるで愛した女性を死に追いやってしまった自分自身を裁き罰を課すようでもあった。そんなある日、弁護を担当した若い女性、椎名敦子が完治の自宅を訪ねてくる。ある人を探して欲しいという依頼だった。個人の依頼は受けないと心に決めて生きてきた完治だったが、家族に見放され誰にも頼ることなく生きてきた 敦子の存在は、ずっと止まったままだった完治の心の歯車を少しずつ動かしていく。敦子もまた完治との出会いによって、自分の生きる道を見出していくのだった。

佐藤浩市 本田翼
中村獅童 和田正人 音尾琢真 泉谷しげる 尾野真千子

原作:桜木紫乃 「起終点駅 ターミナル」(小学館刊)
音楽:小林武史
脚本:長谷川康夫
監督:篠原哲雄
主題歌/「ターミナル」My Little Lover(TOY’S FACTORY)
配給:東映

公式サイトwww.terminal-movie.com

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会


■Profile

篠原哲雄

篠原哲雄『起終点駅 ターミナル』1962年生まれ、東京都出身。
96年、『月とキャベツ』で劇場用映画デビュー。主な監督作品に『はつ恋』(00)、『命』(02)、『深呼吸の必要』(04)、『欲望』(05)、『地下鉄(メトロ)に乗って』(06)、『山桜』(08)、『真夏のオリオン』(09)、『小川の辺』(11)、『スイートハート・チョコレート』(13年中国公開)、『種まく旅人 くにうみの郷』(15)などがある。