話題の映画などの作品にまつわる、俳優・女優、映画監督、アーティストらへのインタビューと、彼らからの「質問」に「回答」できるOKWAVEの特別企画です。

Vol.606 映画監督 佐々部清(『種まく旅人~夢のつぎ木~』)

OKWAVE Stars Vol.606は映画『種まく旅人~夢のつぎ木~』(2016年11月5日公開)の佐々部清監督へのインタビューをお送りします。

Q 『種まく旅人』シリーズ作品への参加の経緯についてお聞かせください。

A佐々部清秋枝正幸プロデューサーとは僕が助監督の時代に一度仕事をしたことがあって、僕が監督した作品を観ていてくれて、このシリーズのテイストに合うんじゃないかと、エグゼクティブプロデューサーの北川淳一さんと相談されて声をかけていただいたのがきっかけです。
僕の作品は、一貫して、ややハンデを抱えた人が一歩を踏み出す、という作品作りをしてきました。この作品の台詞にもありますが、「汗を流した人がちゃんとむくわれる」ような、そういう人たちへスポットを当てたいと考えています。僕の作品は地味だと言われますが、自分が一番感動するのはそういう人たちなので、このシリーズを観させていただいて、これなら自分らしい映画が作れるかなと思って引き受けました。

Q 作品作りにはどの段階から入られて、どのようなことを大切にしようと思いましたか。

A『種まく旅人~夢のつぎ木~』佐々部清僕が話をいただいた時点で、岡山県赤磐市の桃を、という大きな柱は決まっていました。本格的に脚本にしていく段階から、プロデューサーと脚本家と共に僕もアイデアを出しながら、脚本作りを進めていきました。
この映画は地方発信で、地方の行政のお金も投入されています。汗を流した人たちの税金が使われているので、その人たちを裏切りたくないという気持ちを常に持っています。最初に市長や地元の方々には「観光映画にはしませんよ」と宣言しましたが、その土地で暮らす人たちの息づかいや気持ちを丁寧につなげば、そのバックグラウンドが名所になると考えて、脚本作りをスタートさせました。
農業を大きなテーマにしていますので、桃を栽培するということについてのある種のノウハウが伝わるようにしたいとも思いました。教育作品にするつもりはありませんでしたが、物語の中でちゃんと桃を作る大変さも伝えようとしました。その時に僕は桃のつぎ木に注目して、人々の夢でつながっていく“つぎ木”ということをタイトルにしました。最近は夢を語ることはダサい、という風潮もありますが、夢を語ることは生きていく上で大切なことだと思いましたので、このサブタイトルは僕が付けさせていただきました。

Q 冒頭はちょっと意外な始まり方ですね。

A佐々部清この映画の制作プロダクションが松竹撮影所で、僕は山田洋次監督が好きなので、松竹撮影所の社長に「オープニングは寅さんみたいにやりましょう」と話して乗っていただきました。『種まく旅人』シリーズの前作、前々作がどちらかというと堅い作品でしたので、今回はエンターテインメントに寄せたいと思って、オープニングは思い切って面白い方向にしました。

Q 高梨臨さん、斎藤工さんという、いま勢いのあるおふたりのキャスティングについてお聞かせください。

A『種まく旅人~夢のつぎ木~』佐々部清僕はふたりとも初めてだったのでこれまでの作品を観ましたが、ふたりとも芝居が確立されすぎている気がしたので、芝居を作らないようにしたいと思いました。主人公の彩音も治もそれぞれ、彼ら自身が半分入ったくらいでいい、あまり芝居で伝えないようにしてほしい、という話をしました。主役感を出そうとすると芝居が大きくなってしまいがちですが、そういう芝居はむしろ津田寛治さんや井上順さんにまかせて、ふたりには淡々と日常を演じてほしいと伝えました。

Q 役者の農作業の部分についてはいかがでしたでしょうか。

A佐々部清ちゃんと桃を扱わなければならないので、実際に現地の農家の方からを高梨さんや池内博之さんらには学んでもらいました。桃につぎ木をしたところから収穫するまでの1年間の過程を勉強してもらっています。
それ以外のところではこちらから何でも教え込むということではなく、皆、役柄を理解した上で撮影に臨んでいますので、僕の前に立つという、ある種の勝負時には農業のことも含め準備ができています。彩音の妹の知紗役の安倍萌生さんは演技が初めてでしたが、バレーボール選手役として、バレーボールがちゃんとできるということでキャスティングしていますし、そういった準備やキャスティングは『チルソクの夏』を撮った頃から変わらないですね。

Q 赤磐ならではの撮影エピソードをお聞かせください。

A『種まく旅人~夢のつぎ木~』佐々部清桃は夏の間、収穫時期を1週間単位でずらしながら収穫できるように多くの品種を用意しています。最初にロケハンに行った時に決めた農地の持ち主の方から毎年の収穫時期を聞いて、クランクインの時期からキャスティングなどのすべての準備をしました。ところが撮影をした昨年の夏は例年よりも1週間から10日くらい収穫の時期が早かったので、実際には桃が収穫済みのところに、桃があるように見せる、ということが大変でした。本当は1年滞在して撮影できればよいですが、そこはスタッフの知恵と地元の方たちと協力し合って乗り越えました。
自然には勝てない、ということでは天気が良くていい景色は撮れましたが、その分暑さが大変でした。陽が照る中で役者もスタッフも逃げ場がありませんので、水分だけは切らさないように気をつけました。朝7時頃にホテルを出て8時過ぎにはみんな汗だくでした。
お昼休みには現地の方から白桃やピオーネなど、果物の差し入れをたくさんいただきました。僕はそれまでは果物が好きではなかったのですが、本当に美味しくてそれ以来大好きになりました。

Q 本作での「夢」の描き方についてどのように考えていましたか。

A佐々部清登場する人物は何かしら夢から挫折しています。治は最初に自分が描いた大志を忘れてしまっています。彩音もミュージカル女優になりたかった夢に挫折していますし、妹もそうですし、志半ばに亡くなった兄も本当は違う夢を持っていました。そんな登場人物たちが、赤磐の町で人の助けを借りて、気持ちがつなぎ合わさったつぎ木が夢を実現していく、ということを描きました。それが「夢のつぎ木」というタイトルにも表れています。冒頭の夢のような不思議な場面も歌と踊り、台詞で楽しく描きました。あの場面で出てくる桃太郎のネタはずっとやりたいと思っていました。「帰ってこいよ」の替え歌は20年来の僕の持ちネタだったのでいつか使いたいとずっと思っていたので、今回実現できて良かったです。

Q 監督は本作以外にも『群青色の、とおり道』など地方発の映画を撮られていますが、そういった地方発の映画についての考えをお聞かせください。

A『種まく旅人~夢のつぎ木~』佐々部清僕は山口県下関市出身なので、いわゆる地方から東京に出てきた人間として、自分をリンクさせたいと思っています。『群青色の、とおり道』の時は「電車の窓から」という曲から何か作れないかという話になりました。僕が山口から東京に上京する時はブルートレインに乗りましたが、やはり踏切をひとつ過ぎるたびに故郷が離れていくと感じました。そういう自分の経験を役柄に入れました。
『種まく旅人~夢のつぎ木~』では「みんなが助けてくれる」ということがテーマになっています。脚本家が書いた数よりも多く「ここはどこですか。赤磐です」という台詞を繰り返し入れました。それは僕が自分の地元の下関で『チルソルの夏』を撮った時に、いろんな人が応援してくれたので、それならもう1本をと、山口県で4本映画を撮りました。この映画で言えば、「ここはどこですか。○○です」と、それが普遍になればいいなという思いを込めました。

Q 監督は人の優しさを描き続けていますね。

A佐々部清僕は映画で人の善意を語り続けていますが、今の日本映画で批評家が賞を与えるのはむしろエッジの効いた人の悪意や心の闇をえぐり出すような作品が多いです。実際にはそういう人たちはほんの一部で、人の最大公約数は善だと思っています。それで僕は人の善意に寄り添う作品を作り続けていますが、映画の世界ではむしろアンチテーゼになっています。ですので、いまの日本映画が向かっている先の返しのようなところにいたいと思います。

Q 佐々部清監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。

A佐々部清この映画では主演のふたりがあまり見せない芝居や顔を撮ることができていると思います。日常を描いた映画なので、ゲームをやるよりも退屈かもしれませんが、この映画で描かれているような日常や夢、誰かを愛したり怒ったりする感情を大事にしてほしいなと思います。人に優しくなれたり自分に厳しくなれたりすると思います。そして日本にはこんなに素敵な場所がまだちゃんとあるので、主演のふたりが良かったというだけではなく、赤磐に行ってみたいとか、桃が食べたくなったという感想をもってもらえたら、この『種まく旅人』というシリーズの務めを果たせたかなと思います。

Q佐々部清監督からOKWAVEユーザーに質問!

佐々部清僕は批評家の方々からは「毒のない映画を作っている」と言われることが多いです。皆さんは、僕に人間の闇をえぐり出すような毒のある映画を撮ってほしいと思いますか。

☆ちなみに佐々部清監督はこれまで発表された14作品中、批評家が選ぶ「キネマ旬報 ベスト・テン」には3作品、「キネマ旬報読者選出ベスト・テン」には6作品が選ばれていらっしゃいます!

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■Information

『種まく旅人~夢のつぎ木~』

『種まく旅人~夢のつぎ木~』2016年11月5日(土)有楽町スバル座ほか全国ロードショー

片岡彩音、27歳。全国屈指の桃の名産地で、市役所勤めをしながら実家の畑で桃を育てている。目下の目標は、亡き兄が接ぎ木で作り出した新種の桃「赤磐の夢」を品種登録すること。心豊かな仲間に見守られ、懸命に働く彩音だったが、愛する故郷は東京で女優になるという彼女の夢を奪った場所でもあった。そんなある日、東京から農林水産省の若き官僚・木村治がやって来る。理想を見失いかけている彼にもまた、日本の農業政策を変えるという夢があった。ギクシャクしながらも、少しずつ距離を縮めていく二人。甘くて香り高い「赤磐の夢」は積年の願いを叶えるのか?
そして二人の夢は? 陽光あふれる桃の産地を舞台に、夢を追うこと、生きることの意味を描いた珠玉の青春映画が誕生した。

監督:佐々部清
出演:高梨臨、斎藤工
池内博之、津田寛治、升毅、吉沢悠、田中麗奈、永島敏行、井上順
辻伊吹、海老瀬はな、安倍萌生、川藤幸三
配給:アークエンタテインメント

公式サイト:http://tanemaku.jp/

© 2016「種まく旅人」製作委員会


■Profile

佐々部清

佐々部清(『種まく旅人~夢のつぎ木~』)1958年生まれ、山口県出身。
明治大学文学部演劇科、横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)を卒業後、フリーの助監督を経て2002年に『陽はまた昇る』で監督デビュー。以降、『チルソクの夏』(03/日本映画 監督協会新人賞)、『半落ち』(04/日本アカデミー賞最優秀作品賞)、『四日間の奇蹟』(05)、『カーテンコール』(05)、『出口のない海』(06)、『夕凪の街 桜の国』(07)、『結婚しようよ』(08)、『三本木農業高校、馬術部』(08)、『日輪の遺産』(11)、『ツレがうつになりまして。』(11)、『六月燈の三姉妹』(13)、『東京難民』(14)、『群青色の、とおり道』(15)などのほか、TVドラマや舞台『黒部の太陽』(08)の演出なども手掛ける。最新作『八重子のハミング』が本年10月29日に山口先行公開、2017年全国公開予定。

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