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Vol.628 作家 さかき漣(「エクサスケールの少女」インタビュー)

OKWAVE Stars Vol.628はいま話題のAIを題材にした小説「エクサスケールの少女」著者のさかき漣さんへのインタビューをお送りします。

Q 「エクサスケールの少女」を執筆されるきっかけについてお聞かせください。

Aさかき漣スパコン開発をされているPEZY Computingの齊藤元章社長という方が私の書いた政経小説を読んでくださっていたそうで、「今度はスパコンやシンギュラリティのことを題材にしてもらえないか」と4年くらい前に言われました。私はSFは好きですが文系人間なので少し難しいなと思って躊躇していたんです。でも、AIブームですし、SF作家へのあこがれもありましたので、何とかやってみようと思って書き始めました。
私は日本の文化や歴史をクローズアップしてエンタテインメントにするのが得意でしたので、やはり“さかきカラー”でSFを書かないと意味が無いなと思いました。題材としてシンギュラリティ(人工知能が人間よりも賢くなるとされる技術的特異点)を書きつつも、選択をきちんとしていけばそれは怖いものではない、ということと、私のカラーでもある日本文化や思想の問題を絡めて書ければいいなと思いました。

Q シンギュラリティをどう描こうと思いましたか。

Aさかき漣AIのことを勉強している人はAIの知能爆発を怖いものとして、ディストピアを思い浮かべる人が多いです。たとえば映画『2001年宇宙の旅』のHAL9000は、AIを勉強している人にとってはディストピアの一例だと思います。ジョニー・デップ主演の『トランセンデンス』は人工知能と化した科学者を通してAIの知能爆発の恐ろしさが描かれています。ですが私自身は、そこまで恐れなくてもいいんじゃないかなと思っています。どうすればそうではないものとして描けるかを考えて、出雲の神話に思い至りました。出雲の神話には国譲りという有名な逸話があります。国譲りの神話では、いまの日本の基になっている大和朝廷ができる時に、出雲の製鉄技術の取り合いで大和と出雲の争いがあったと私は考えています。この出雲の製鉄技術と、現在のAI技術を重ねて書いてみようと思いました。
出雲の国譲り以前に有名なのは、スサノオノミコトがヤマタノオロチを倒して三種の神器の草薙剣を手に入れる話です。この刀を手に入れたことが今の日本の力の象徴になっています。技術があまりにも革新的すぎると、社会に与える影響も大きいものです。まず刀を奪って、その後に国譲りが行われるという一連の神話が古事記に記されていますが、大和朝廷の正当性を示すために、おそらく真実とは異なることも書かれていると思います。私は、技術の取り合いをして、勝った方が日本という共同体を統べる力を得た、と受け止めています。吸収された側である出雲の民は非常に大変だっただろうし、出雲を治めていた大国主命にも乗り越えなければならないことが多々あったと思いますが、無数の苦悩と犠牲に耐えて、それでも前へ進んだのではないでしょうか。製鉄技術はいまでも日本の強みとして残っていますが、大和朝廷の時代から現代に至っているので、日本人はシンギュラリティもそのように受け入れていけるだろうと思います。
ただ、AIの知能爆発は私たち人類にとってまったく未知のものです。出雲神話どころでない大きな混乱があるかもしれません。その時にどう乗り越えればいいのか、私は理系の研究者ではないので、哲学の思想や人間の心理面から考えていきました。

Q 日本の古い神話や万葉集を取り入れたねらいをお聞かせください。

Aさかき漣人間が何かを乗り越える時に、経験よりも歴史から学んだ方がいいと私は考えています。経験は個人のものでしかないし、小さなものですが、歴史は多くの人や物が関わっています。それで、歴史を学ぶ手がかりとして古典に活躍してもらおうと考えて、記紀の神話や万葉集を作品の中に入れていきました。万葉集は数ある歌集の中で日本人のもっとも土着的な心が描かれた歌集だと思います。あの頃の人間と今の人間もきっと根本はあまり変わっていませんから。

Q 主人公の刈安青磁の青春譚でもあり成長の物語の側面もありますね。

Aさかき漣主人公の青磁は、親に捨てられ、施設では苦しみを味わう、といった不幸な生い立ちです。それが、一斤先生という人物に引き取られてから大きく生活が変わります。その意図は環境によって人は変わるということを描きたかったからです。それは人物だけではなく、AIに関しても同じで、価値システムが重要であることを描きたかったからです。
AIに感情を持たせるべきか否か、という議論があるのですが、私は「エクサスケールの少女」では感情を持ったAIの出現が見たい、という自分の夢を描きたいと思いました。宇宙物理学者・理学博士の松田卓也先生は「AIは機械だから人間が使いこなした方がいいんじゃないか」というお立場でいらして、先生のお考えは本当にもっともだと思うんです。でも私は研究者でなくクリエイターのせいか、人間は未知のものが目の前にあれば絶対に研究したくなるだろうとも考えてしまって。ですので、研究や開発を徹底的にやった上で、その時にAIが脅威にならないためには、環境と教育が大事になるだろうと思います。これは人間と一緒ですよね。主人公の青磁は悪い環境にいた時は利己的で、鬱々した暗い子でした。それが一斤先生という裕福で向学心が旺盛で、優しいことや美しいことを教えてくれる人のところに行って、彼は変わっていきます。恋人ができて、最後には本当の良心に目覚めます。そうなった時に良いシンギュラリティを起こせる、これは人間もAIも同じことです。
「エクサスケールの少女」の中では価値システムをAIが担うのではなく、青磁の中で担うものとしました。これは私の日本人的な発想で、本当はAIの進化はもっともっと突き詰めることもできます。BMI(ブレイン・マシン・インタフェース)という技術の面白さも伝えたいなと思って、青磁と彼が開発したKIRAというAIが組み合わさった良心の汎用人工知能(AGI)が起こす、良心のシンギュラリティ、というものをクライマックスに持ってきました。

Q 青磁の前に登場する謎の美女・千歳の設定が秀逸です。

Aさかき漣千歳は多くのものを見てきたからこそ言えるのですが、「大丈夫だよ、人間はいろんなことを乗り越えられるよ」ということを青磁や読者に伝えてくれる存在です。人間は歴史的に悪いことや恥ずかしいことをしてきましたが、それでも今も生きているということを伝えてくれます。千歳と出会う前の青磁はそれこそ0か1しかない人物でした。昔のコンピューターも0と1ですよね。でも、汎用人工知能は曖昧なものも許容した存在です。それは人間と近い存在ですよね。だから人間もAIもそれでいい、というメッセージを千歳が発する言葉には込めました。

Q シンギュラリティという要素以外で、作品の中で描こうと思ったことはいかがでしょうか。

Aさかき漣私は普段から善悪をはっきり分けるのを好ましく思っていなかったので、善悪二元論の否定ということは作品の中にメッセージとして込めました。政経小説を書いていた頃に接した多くの方々は、物事をどちらか極端に分けがちだと感じていて。例えば、過去の戦争のことである国に対して複雑な思いがあったとしても、今はどうすればお互いに仲良くなれるかを考えた方が建設的ですよね。政治経済の問題に熱心な方ほど良い悪いで分けてしまって、却って溝を深めてしまっているように見えるんです。
AIに関しても「AIは怖い」と言い切ってしまうのもおかしな話で、良いところも悪いところもありますよね。折衷案を探していくのが理性的ですし、現実的だと思います。
作品の中で、善悪二元論は否定したかったですし、とはいえ、生きていく上で善を求めることは美しいということも描きたかった。同様にAIもできるだけ善の要素の多い汎用人工知能を求めていくことが私たち人類の義務だと思います。
人間と同等のようなAGI(汎用人工知能)が、シンギュラリティを迎えて人間の知能を追い超して、その後、間接的にAGIが人間を管理することになったとしても、その時は新しい生物が生まれたと思えばいいと思います。『コンタクト』という映画は、地球外生命を求めていく物語ですが、人間は理屈抜きで地球外生命の話にロマンを感じますよね。私たちのように知性を持った存在をどこかで見つけられたら嬉しいという気持ちは絶対に否定できないと思います。だから、AGIも私たちと同じように意識や感情、さらには仲間を求める気持ちがあると思います。そしてAGIはもしかすると私たちよりもはるかに高度な知性と精神性を持つ可能性もあります。そうしたら良い社会が来るかもしれません。
プラトンの哲人統治という考え方が私は好きですが、実際にはそのような哲人になれる人はいない、と全否定されてもいます。人間が無欲に利他的に生きることは難しいです。でも、人間よりも知性も精神性も高ければ哲人のようなAGIが生まれるかもしれません。慶應義塾大学の渡辺智暁先生は、AI脅威論に対して、私たちが猫を見てはたして抹殺しようとするか、という話をされていたことがあって、私は感銘を受けました。猫は人間よりもはるかに知能は低いですが、私たちは猫に脅威を感じてこの世から排除しようなんて思いませんよね。だからAGIが私たちよりも高度な存在なら、人間を抹殺しようなんて思わないのではないでしょうか。
100年後にはAGIと共存できていると思います。私の考えは楽観的と思われるかもしれませんが、それよりもシンギュラリティによって起きるであろう技術革新で私たちが受ける恩恵の大きさを見た方がいいと思います。とくに医療分野は大きく躍進すると思います。医療や創薬は患者さんにとって一刻を争うことですから、AGIによって医療の革新が爆発的に進むことを私は待ち望んでいます。いまこの瞬間も大病とたたかっている方が多くいらっしゃることを考えたら、AGIの脅威論なんて言ってられない。シンギュラリティが人類にとって脅威とならないよう準備や対策を講じておき、その恩恵を最大にすることが建設的な姿勢だと思います。

Q シンギュラリティが起きて、あらゆる問題が解決した時、人類は何をして過ごすと思いますか。

Aさかき漣創作や知的好奇心を満たすことに費やすと思います。いまの人類の悩みの多くは物理的な制約です。病気、貧困、外見のコンプレックスなどの問題は、シンギュラリティが起きれば解決してしまうと思います。そして物理的な要求が解決してしまうと、たとえば思索や芸術活動といった、それまで無駄と言われがちだったことを、したくなくてもしなくてはならないという時代になると思います。私は幸運なことに普段からそういうことをしている人間なので困りませんが、皆さんはどうなのでしょうね(笑)。
「エクサスケールの少女」の第5章を「種族保存本能としての「生」」としましたが、哲学や思索的なのものとは全く違う内容にしようと思って書きました。哲学や思想、芸術は人間の種の保存とは関係ないことですよね。でもシンギュラリティが起きるとそういうものの時代になるので、私はそれとの対比を書きたいと思いました。第5章で、青磁は千歳と一緒に船に乗って出雲に向かいます。それまでの青磁は千歳に対して格好いいところを見せようとしていましたが、顔や衣服の汚れもどうすることができないくらい余裕もなく格好悪いところを見せざるをえなくなります。でもそういう姿が人間の本来の姿で、そういう中でも人間は子孫を残してきました。シンギュラリティが起きた後、人類の種族保存本能はどうなるのか、私はまだそこについては答えを見つけられていませんね。
それと、トランスヒューマニズムにも興味があって、青磁の妹・萌黄を通して問題提起しました。萌黄の細胞のクローンやラストシーンについて書いたことは、生命や意識に関する問題提起です。生命や意識はどこまであって、死後はどうなるのか。そこについても、私は答えを持っていないですね。

Q AIが文章を書いたり音楽を作ったりできるようにもなると思いますが、そうなると人間のできる創作活動はどうなると思いますか。

Aさかき漣「エクサスケールの少女」がもっと話題になったら、この世界の続編を書きたいと思っています(笑)。そこではシンギュラリティ以降のクリエイターの問題も取り上げたいんです。
私は星新一さんの作品が好きで小学生の頃から読んでいるので、いまなら星新一さんっぽい作品を書こうと思えば書けます。でも、それを読みたいとは思いません。私は、星新一さんが若い頃に苦労して、その後にショートショートを生み出したりSF小説を書いてきたという、そういう背景も含めて好きだから作品を読んでいるんです。仮にAIが星新一さんっぽい作品を作ったとしても「汚さないで!」という気持ちにしかならないです(笑)。
私としては、AIが真似をして何でも作ることができるようになると、却ってその芸術家個人がクローズアップされるだけだろうと。作品だけではなく、その人と作品のセットに価値がある、という方向にどんどん向かうだろうと思います。ただ、AGIが完全に意識を持ち、自分の生い立ちを持ち、自分の発露として作品を作り出したとしたら、それは素晴らしいライバルになると思います。でもそれは仲間が増えるだけで、結局、恐れることではないんです。

Q さかき漣さんご自身は文章で伝える、ということにはいつ頃から興味を持ちましたか。

Aさかき漣私は文章に限らず、絵を描くことや写真だったり、表現すること全般に子どもの頃から興味を持っていました。家族が教育熱心で、インドアなこともアウトドアなこともたくさん教えてくれました。だから私は船舶免許や無線免許も持っているんです(笑)。芸術や思想についてのインプットをたくさんしてもらって育ったので、そうやって自分の中になだれ込んできたものを咀嚼して表現することへの気持ちが小学生の頃にはありました。科学も芸術も歴史も好きで、そのまま中学、高校、大学と、表現をすることへの気持ちは変わらなかったですね。

Q さかき漣さんからOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。

Aさかき漣シンギュラリティを恐れるのではなく、人間の技術革新や欲求は止まらないのだから現実的な解決策を見出そうと思って、私は作品を通じて皆さんの意識改革を促そうと「エクサスケールの少女」を書きました。
映画『コンタクト』で人類は地球外生命との邂逅を強く願いました。川原泉さんの「ブレーメンⅡ」という作品は、人間と同じように動く動物と共存していく話ですが、その作品の中でも人間は自分と同じような知的な交流できる存在を求めていると言っています。人間は寂しいという感情を持っていて、他者との交流がないと生きていけない存在です。ロビンソン・クルーソーは無人島で一人で生きていましたが、誰とも交流しないでいるのは生きているとはあまり言えないんじゃないかと思います。そういう意味でAGIを捉えると、恐れるどころか、嬉しいことでしかないと思います。しかも人類に恩恵があるのですから。

Qさかき漣さんからOKWAVEユーザーに質問!

さかき漣「エクサスケールの少女」では作品の中に古典の要素を入れました。現在や未来のことだけを考えるのではなく、歴史から学んでクロスオーバーさせることが大事だと思ったからです。
皆さんへの質問は、シンギュラリティを迎えるにあたって、どんな古典が大事だと思いますか。

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■Information

「エクサスケールの少女」

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徳間書店
1,600円+税
ISBN-13: 978-4198649135人工知能の行く末は、ユートピアか、それとも…?
孤独なスパコン研究者・青磁の前に現れたの万葉集を愛する謎の美女・千歳。二人は古からの運命に導かれ、京都から東京、東北、そして神話の里・出雲へ。
彼らに迫る陰謀と、人類の未来を予言する衝撃の真実とは?

■Profile

さかき漣

作家。立命館大学文学部哲学科哲学専攻卒業。
著書に『エクサスケールの少女』(徳間書店)、共著に『コレキヨの恋文』(小学館/PHP文庫)『希臘から来たソフィア』(自由社)『顔のない独裁者』(PHP研究所)他。2015年、『顔のない独裁者』が『イブセキヨルニ』として短編アニメ化。

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