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Vol.688 映画監督 菊地健雄(映画『望郷』)

OKWAVE Stars Vol.688は映画『望郷』(公開中)菊地健雄監督へのインタビューをお送りします。

Q 湊かなえさんの原作についての印象をお聞かせください。

A菊地健雄今までにも湊かなえさんの小説を読ませていただいていましたが、この『望郷』という作品に関しては、他の作品と比べて少し手触りが違うなという印象がありました。もちろん、人の裏側を描いていくような、表の顔とは違う人の本音の部分があぶり出されていくところは他の作品と共通していますが、どこか優しい眼差しが他の作品よりもある印象でした。
あとで湊さんご自身からお聞きしたことですが、湊さんの故郷である因島をモデルにして、ご自分の体験や島であった出来事をそれぞれの話に散りばめていったそうです。そういった湊さんなりの望郷の気持ちが描かれている自伝的な要素が色濃く出た作品。例えば、海外のミステリー作家で有名なスティーブン・キングさんが書かれた「スタンド・バイ・ミー」が他の作品と少しテイストが違うように、湊さんにとってこの作品がそういう作品に当たるのかな、というのが原作を読んだ印象です。

Q では、映画化の経緯についてはいかがでしょうか。

A菊地健雄プロデューサーの方から「こういう原作があるよ」と薦められて『望郷』を読みました。自分の監督デビュー作の『ディアーディアー』が自分の故郷を舞台にした作品でしたので、どこか運命めいたものを感じました。今回は湊さんの故郷への思いを映画にしていく作業は、人と故郷との関係性を客観的な視線で捉え直すことができるのではないかと直感しました。僕は北関東の出身ですが、地方出身者として、いまの日本の地方性にはすごく興味があり、今回の作品の中でもその地方性を描けることもお引き受けする大きなモチベーションになりました。

Q 原作の6編の中から「夢の国」と「光の航路」を選ばれた理由は何でしょう。

A映画『望郷』菊地健雄映画化のお話をいただいた同時期に別の企画でTVドラマ化された3編があったことが大きな理由ですが、「夢の国」と「光の航路」を読むと、親子の話であることと過去と現在がテーマになっている共通項が見出せました。いずれも主人公とその親との葛藤が興味深い部分ですが、その象徴として「夢の国」ではドリームランドという場所があり、「光の航路」には進水式という出来事があります。その2つはとても映画的な心象風景になる気がしました。つまり親子の関係性の物語だけではなく、具体的に出来事として視覚化できるので、映画にできると思いました。また、映画オリジナルの部分として、この2人の主人公が小学校の同級生だったらという設定を加えると、一つのテーマ性を持った作品になると思いました。

Q 映画として描き出す上でどういったところを大事にしましたか。

A菊地健雄映画の企画を進める上でプロデューサーに真っ先にお願いしたのが、この原作の舞台である因島で撮りたい、ということでした。原作自体は海のある地方であればどこででも成立するのですが、かつてはフェリーでしか行き来できなかった因島をはじめ瀬戸内海の島がしまなみ海道によって結ばれたことで状況も変化したということや、「光の航路」で出てくる最後の進水式の後、造船所が閉鎖されたことで島の過疎化が進んだというような、島の記憶の蓄積をこの映画では大切にしたかったのです。島という場所は地続きではなく間に海がある場所ですので、海のない県で育った僕としては、そういう風景を見て育った人たちの話を作ってみたいという気持ちもありました。
ロケ地の因島に住んでいる方にお話をお聞きしたり、いろいろな協力を得ながら撮影しました。島に流れている空気や風、太陽の光といったものが今回の作品では役者さんたちにも良い影響を与えてくれたはずです。

Q 貫地谷しほりさん、大東俊介さんという主演のお二人にはどんなところを期待しましたか。

A映画『望郷』菊地健雄「島に自然に立つ」ということが簡単なようで一番難しいことです。そのためには演技や衣装といったことが入口としては大切になるのですが、普段の俳優さんはきれいで格好良いですから「こんな田舎にこんな人いないよ」とは思われたくないなと。今回、僕はお二人とも初めてご一緒したのですが、これまでのお二人の出演作品を拝見して、普通の島の人を演じることができるという確信がありました。
親子の話なので、貫地谷さんは木村多江さんと、大東さんは直接的な絡みはないのですが緒形直人さんとの関係性を表現していただけるだろうという期待もありました。大東さんは緒形さんの出演シーンには自発的に見学に来られていました。また、島の方と仲良くなって個人的にも島で過ごす時間を大切にされていた姿勢が素晴らしかったです。貫地谷さんは木村さんとの芝居を、親子としての愛情とわだかまりのような繊細な部分を演じきっていただきました。また、娘役の後藤由依良ちゃんと控室でも親子のようにずっと一緒にいたことが印象的でした。

Q 因島という場所の影響は大きかったでしょうか。

A菊地健雄一部は本州で撮っている部分もありますが、夢都子の屋敷を始め、ほとんど因島を中心とした島々で撮っています。海風であるとか、山の上に登ると見える白波だったり、光のあたり方が、刻々と変化していくような景色を普段から見て育っている人たちを演じる上で、設定は島だけど本州で撮影するという選択肢もあったかもしれませんが、その場所に立ってお芝居していただいたことによって生まれた化学反応も確実にありました。カメラが回っていない時間も島に居られることも大きかったですね。撮影でお借りした家も、今は空き家ですが、壁に落書きが残っているような、島の記憶の痕跡のようなものが積み重なっています。あるいは、近所の方が話しかけてきてくれて、「この商店街は、造船所があった頃は立ち飲み屋がたくさんあって栄えていたのよ」などと教えていただいて、役者やスタッフがそういった話を受け止めながら撮影できるのは、実感を込めながら撮影できたという点で素晴らしい経験になりました。

Q この作品を通じて新しい発見などはありましたか。

A菊地健雄大東さんも話していましたが、描いているのは因島の親子の話ですが、自分の故郷のことや親のことを振り返ることが何度もありました。家族や故郷に対する思いは、一度自分の故郷で撮っているのですでに変化はしているのですが、今回は自分の故郷ではなく湊かなえさんの故郷を描くということで、客観的に人間と故郷の関係を見つめるいい機会にもなりました。また、自分の作品で初めて海を撮影しましたが、海というものが持っている映像的な豊かさは大きな発見でした。

Q 菊地健雄監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A菊地健雄瀬戸内の島そのものが登場人物の一人といいますか、主人公たちが動く背景に映っているものにも注目してもらえると違う見方ができるので、ぜひ注目して観ていただければと思います。主演の貫地谷しほりさん、大東俊介さんをはじめ、子役に至るまで、素晴らしい役者さんが集まって、心の機微をみんなが一生懸命演じている点も注目してほしいです。見終わった後には、自分の故郷や両親、しばらく会っていないような同級生などに思いを馳せていただければ作った我々としては非常に嬉しいです。

Q菊地健雄監督からOKWAVEユーザーに質問!

菊地健雄普段忘れていそうな両親との思い出をお聞かせください。

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■Information

『望郷』

映画『望郷』2017年9月16日(土)新宿武蔵野館ほか全国拡大上映

古いしきたりを重んじる家庭に育った夢都子は、故郷に縛られ生活をしていた。彼女にとって幼いころから本土にある“ドリームランド”が自由の象徴だったが、それは祖母や母のもとで暮らす彼女には決して叶わない“自由”であった。月日は流れ結婚をし、幸せな家庭を築く中、ドリームランドが今年で閉園になるという話を耳にする。憧れの場所がなくなる前に、彼女はずっと抱えてきた想いを語り始める。
一方、転任の為9年ぶりに本土から故郷に戻った航のもとには、ある日、亡き父の教え子と名乗る畑野が訪問してくる。彼は、航が知らなかった教師としての父の姿を語り出し、父親のことを誤解していたと知るが。

貫地谷しほり 大東駿介
森岡龍 浜野謙太
伊東蒼 川島鈴遥 荒木飛羽
片岡礼子 相島一之 白川和子
木村多江 緒形直人

原作:湊かなえ「夢の国」「光の航路」(「望郷」文春文庫 所収)
監督:菊地健雄
主題歌:moumoon「光の影」(avex trax)
制作・配給:エイベックス・デジタル

http://bokyo.jp/

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■Profile

菊地健雄

映画監督 菊地健雄(映画『望郷』)1978年生まれ、栃木県足利市出身。
明治大学卒業後、映画美学校5期高等課卒。映画美学校時代から瀬々敬久監督に師事。
助監督として参加作品は『64』(瀬々敬久監督)、『岸辺の旅』(黒沢清監督)など多数。15年、『ディアーディアー』にて長編映画を初監督。同作は第39回モントリオール世界映画祭に正式出品され、フランクフルト第16回ニッポン・コネクションではニッポン・ヴィジョンズ審査員賞を受賞した。長編2作目の『ハローグッバイ』は第29回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門に正式出品され、全国順次公開中。またAmazonプライム・ビデオにて連続ドラマ「東京アリス」(数話監督)が好評配信中。本作は自信長編3作目の監督作品。