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OKWave > OKStars> Vol.76 映画監督 吉田大八

山あいの小さなパーマ屋さんは、女のザンゲ室…。
“大人の女性の恋心”を赤裸々に描き、西原理恵子さんの新境地的な作品として話題となった『パーマネント野ばら』が菅野美穂さんを8年ぶりの映画主演に迎えて待望の映画化。ほぼ全編を西原さんの故郷である高知県で撮影した本作は、美しい風景と豪華キャストで、多面的な人間の情を賛美する作品となりました。
『OKStars』第76弾には、本作の吉田大八監督が登場!男性である吉田監督が、この女性の物語をどのように映画化したか、作品の魅力の裏側に迫りました。

まず『パーマネント野ばら』の映画化についてオファーを受けられた時はどのように感じましたか?

とにかくドップリ女性の話だし、男の自分に何を期待してオファーしたんだろう?ということをまず考えました。女性の気持ちに近いということであれば女性がつくるほうが話が早そうだし、1本目の映画が同じように田舎で女性の話なのでそういうこと?とプロデューサーに確かめたりして。とにかく、どう自分が監督として原作の世界観に切り込んでいくべきかがすぐには見えなくて戸惑いの方が大きかったです。ただ、魅力的な話だし、こう言うのも変ですが誰かにやられて悔しい思いをするくらいなら自分で手を上げちゃえと。やりながら考えればいいやと思いました。

映画化する上で気をつけたこと、こだわったことは?
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マンガの原作は初めてなんですけど、マンガならではの表現ってありますよね。もちろん絵もそうだし、あと『パーマネント野ばら』には西原理恵子さん必殺の心に沁みる台詞やモノローグがたくさんあります。だから、ついそのまま自分の映画にも持ち込みたくなるんだけど、西原さんのあの絵、あの字でこそ美しく成立してるものだし、その印象に捕われて中途半端になるくらいなら、潔くあきらめたほうがいいだろうと。むしろ映画として、同じ感情に到達するために何ができるかを最初から考えていこうという気持ちで作りました。

映像や構図のよさが際立っていてそういった点は映画ならではだと感じましたが、原作の舞台であり、ロケ地にもなった高知の風土について監督の印象は?

実際の風景や人間の表情を見せられるのが映画の最大の強みなので、強力な原作に対抗するには十二分に活かさないといけないところなんですが、…対抗って戦っているみたいですけど(笑)、それくらいの気合いで、原作にどうアプローチするかというところがすごく大事だと思いました。だから、魅力的な風景を相当気合入れて探したというか、ロケハンには時間をかけましたね。

>あの場所を選んだ決め手は?

まず最初に野ばらのお店をどこにするかを考えた時に、海のそばに建てたいと思ったんです。原作だともう少し畑の方なんですが。映画では、野ばらそのものに、海を感じたいというのが出発点でした。でも高知の海岸線をロケハンしてみると、外海なので堤防が高くて港そのものと人が住む空間とが一望できるところって実はなかなかないんです。撮影をした宿毛市の栄喜というところは少し内陸に入っているからか比較的台風の影響も受けにくいようで堤防が無かったんです。栄喜にたどり着いた時には「ここだ!」と思いました。そこを軸に風景を探していったら、いい風景が栄喜を中心にたくさん見つかる幸運もあって、スムースに場所が決まっていきましたね。

本作に登場する女性たちのキャラクターについて、監督は率直にどのように思いますか。

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僕の実感から言うと、あんな女性たちがいて、男たちは幸せですよね。これは西原さんから聞いた話ですけど、高知では女は男を当てにしないんだそうです。暖かいし自然に恵まれていて食べ物を確保するのにはそんなに苦労しない土地柄なので、男は昼から酒を飲んでただ遊んでぶらぶらする…。それで女の人がしっかり働いてダメな男と一緒に暮らすというね。その分、強くなるんでしょうけど、自分が知っている女性の中には、あまりいないタイプです。男を当てにしない強さというのは魅力的ですね。

そういうところで、主役のなおこ演じる菅野美穂さんはじめ、キャストに求めたことは?

なおこは別として、小池栄子さんや池脇千鶴さんは、それぞれに演じた人物の感情のアップダウン幅がけっこう大きいので、メリハリは意識してもらいました。

>男性キャストの江口洋介さんや宇崎竜童さんについては?監督が出演を望まれたそうですね。

江口さんにはゆるぎない強さと明るさがありますよね。だからこそなおこの寂しさも際立つのではないかと。宇崎さんは、昔からカッコいいじゃないですか。声も含めた雰囲気が。でも、実際にお話してみると、とても愛嬌があるというか、たとえダメでも許せちゃいそうな、カッコいいのに可愛げのあるダメさ加減が宇崎さんならハマりそうな気がして。期待以上でした。

>菅野さんのなおこと江口さんのカシマのふたりのシーンの初々しさの積み重ねが終盤への伏線になっていたり、全体の流れであったり切なさが際立っていると感じましたが、菅野さんにはどのようなことを求められたのでしょう?

一人娘の母親として、あるいは野ばらでおばちゃん達や友だちと接するときの割と地に足の着いた感じと、恋人とふたりでいる時のふわっとした雰囲気にはっきり温度差をつけようと話しました。別人に見えるくらい、変わってもいいと思ったんです。前半はとくに、なおこがはじけすぎないように抑えた演技を求めましたが、菅野さんの表現も、そこの違いがすごくくっきりしていたので、さすがでしたね。

撮影中のエピソードなど教えてください。
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地元のキャストの皆さんの思い切りの良さには感動しました。パンチパーマをお願いしたら、ほぼ皆さん即答でオッケーでした(笑)。しかもなおかつ芝居が驚くほど自然なんです。カメラの前でも全然動じない。あと、表情がすごく豊かなんですよね。いわゆるイイ顔。男性も女性もそうですけど、西原さんのマンガを育んだ風土を実感しました。みんなの顔を見ているだけでも飽きませんでしたね。

>全体を通すと、寂しさや悲しい感情も結構出ている作品だとも思うのですが、そういう意味でも野ばらでのやり取りやおばちゃんたちの笑顔がいいバランスになっていますよね。

そうですね、欲張りなので、できるだけいろいろな感情の上から下まで、映画に取り込みたいとは思っています。

監督はCMの世界から映画の世界に入られましたが、映画への特別な思いをお聞かせください。

CMは、作ってオンエアが始まる頃にはすっと手離れするかんじで、そういうサイクルの短さが気持ちよくて自分に合ってると思っていたんだけど、映画をはじめてみて、映画の長さじゃなきゃ届かない深さがあるなと、当たり前のことですが気付かされましたね。やはり映画は只者ではないなと。まだ自分にとって映画は特別な経験なので、その特別さが続く限りは続けたいですね。自分がプロの映画監督になったという感じがいまだにあまりしない、というか職業として慣れてしまうということにどこか抵抗があります。一本一本に、初めて撮る時のような緊張感を感じ続けられたらなと。今回も撮影中にそんな感情を何度か味わいましたが、これからも特別な経験として映画に関わりたいと思いますね。

今後はどのようなことをされたいですか?

具体的な予定はありませんが、できれば、まだやったことのないことをやりたいと思います。

吉田大八監督のモットーをお聞かせください。

その場判断でベストな選択をする、というか、できる限り前もって準備したことから自由になる、というのが理想ですね。あくまで理想ですけど。
 
>そういう意味では映画も事前に計画を立ててというより…      
     
計画は立ててくれる人がいるけど、もっといいことを思いついたらやってしまうということです。そういう意味では思いつきが多いとスタッフから思われてるかもしれない。モットーとか言ってしまうと怒られるかも(笑)。
もともと自分がそんなに自由な感じの人間じゃないんです。あえて自分を駆り立てて、その場の状況に反応していかないとどんどん小さくなっちゃうという危機感があるのかもしれません。

最後にこのインタビューを読んでいるOKWaveのユーザにメッセージをお願いします。

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ある種の生き辛さを感じている女性は多いと思いますが、そういう方々に是非観ていただきたいですね。男の僕なりに真剣にテーマと向き合って作ったので、観て、何か感じていただけたらありがたいなと思います。

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■Information

パーマネント野ばら

美しい空と海に囲まれた田舎町で起こった、ある切ない恋の物語。彼女の涙に秘められた、あまりにも切ない真実。
「ずっと好き」はどこにもないから、私は毎日、小さな嘘をつく。
菅野美穂8年ぶりの主演最新作、原作:西原理恵子×監督:吉田大八

菅野美穂、小池栄子、池脇千鶴、宇崎竜童、夏木マリ、江口洋介

2010年5月22日(土)新宿ピカデリー、シネセゾン渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー。

(C)2010映画『パーマネント野ばら』製作委員会

公式サイト:http://www.nobara.jp/

吉田大八

1963年10月2日生まれ、鹿児島県出身

1987年早稲田大学卒業後、株式会社ティー・ワイ・オーに入社し、企画演出部に所属。CMディレクターとしてのキャリアを積む。現在までに数百本のTVCMを演出し、数多くの広告賞を受賞してきたトップディレクターのひとり。国内のほか、海外でもカンヌ、IBA、CLIO、NY、アジアパシフィックなどで多くの受賞暦を持つ。また、PV、TVドラマ、ショートフィルムの演出などでも高い評価を得る。2007年に「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」で長編劇場映画デビューし、カンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待されたほか、各国の映画祭で高い評価を得る。本作は、「クヒオ大佐」(2009)に続く、3作目の長編劇場映画となる。

吉田大八監督