Vol.88 映画監督

日向朝子

『OKStars』Vol.88には映画監督・日向朝子さんが登場!神保町を舞台とした、人気モデル菊池亜希子さん初主演映画『森崎書店の日々』のことをおうかがいしました。

『森崎書店の日々』の原作について、新聞記事で興味をもたれたということですが、原作小説にふれた時どう思いましたか。

最初に読んだ時には優しさがある小説だと思いました。何かで立ち止まった人に対して、それがダメと言うのではなく肯定する優しさがある部分にまず好感を持ちました。その後、小説の舞台となる神保町を見ていく中で、神保町を映像として残しておくべきだと思ったところから映画にしようと思い至りました。

映画化にあたって、どのようなところに重点を置こうと思いましたか?

最初に思ったのは、できるだけ実景を撮りたいということ。「森崎書店の日々」という小説を映画にしたいと思ったきっかけは、神保町を撮りたい、ということだったので神保町の風景や人、そこにある文化とかできるだけカメラに収めるようにしました。 作品全体の8割から9割は神保町の中で撮っています。とくにこだわったのは、設定は神保町だけど違うところで撮っているというのは無いというところ。スケジュール上、いろいろと調整しないとならないところはありましたけど、そこにはこだわって神保町のシーンは神保町ですべて撮るということでやりました。

神保町という街について、監督の所感などを。

縁がないと行かない街だと思いますけど、私自身あの場所に神保町があることが意外でした。古書店街が東京のど真ん中にある、こんなレトロな街が東京にあるんだって(笑)。実は神保町とはそれまではあまり縁がなかったんです。原作の小説を買いに行ったのが神保町の三省堂書店さんだったんですけど、それがほぼ初めてでした。だからその時は主人公の貴子が神保町の駅から出てくるのと同じ感じで神保町の町を歩きました(笑)。
神保町を見ていると、今まさに変化の中にあるというか、すごく古くからある書店や建物と、新しくできた建物が同居しているというか混ざっているというか、新しい風が入ってきているような印象を受けたんです。東京というものが変わっていくということを映画の中で捉えていきたいという気持ちがあったから、神保町という街が東京全体を小さな形で表しているようにも見えたんですね。神保町の変化を撮るということを通しながら東京の変化をカメラの中に収めたいという気持ちがありました。

>東京って銀座とか他の町でもそういうところありますね。

そうそう。古い建物もあるけど銀座三越は新しくなる、みたいなところとか。 その変化して新しくなっていくことに別に否定する気はないんですけど、東京に昔から住んでいるので、変わっていくということ自体を撮っておきたくなったんですよね。 森崎書店は表通りと高層オフィス街が迫ってきている中間に位置していますよね。あれが田舎ではなく都会のど真ん中にあるということが個人的には好きですね。

キャストについて。主演の菊池亜希子さんは初主演ということでしたが、演じる上でどんな話をしましたか。

初主演だから何かを求めたということは無かったのですが、初主演ということではほぼ順撮りにしました。菊池さんが役者として変わっていく様子がそのまま貴子が変わっていく様子と重なればいいと思っていましたので。貴子が神保町に初めて来るという形をとっているので、菊池さん自身が神保町に慣れ親しんでいけば、貴子もそうなるだろうということで、よかったなと思います。
途中、菊池さんは思い悩んでいる時期もあったようですが、こちらはあえてそれを解決しなかったです。整理がつかないものはそのままでいい、ということで、話はたくさんしましたけど解決はしないで臨んでもらいました。

>ゆったりと時間が流れていく映像でしたが、貴子の変化も自然にということでしょうか。

途中から、もっと音を聴いて、ということは言いました。シーンのスタートをかけてカットをかけるまで時間が流れていますよね。その間に、例えば書店にいたとしてもその外ではいろいろな町の音がしているわけです。シーン上は反応しないんですけど、そこで暮らしていたらその音に反応しますよね。そういうところを意識してもらいました。

同様に、内藤剛志さんには?

内藤さんにも同じで、周りでする町の音にもっと耳を傾けて、ということは言いました。

>古本市のシーンなんかは本当にやっている最中に撮影を?

そうですね。エキストラでも何でもなく、その時々いた方々がそのまま映っています(笑)。皆さん本に目がいっているので、気になってない、というか目に入ってなかったんじゃないでしょうか。内藤さんに気付かない人もいるし、気付いても本の方に関心がいって気にしなかったり。

>田中麗奈さんら、他のキャストと貴子のやり取りもいいアクセントになっていたと思いますがそのあたりは?

とくにどういう風に、という話はしなかったんですけど、各キャストみんなに、衣装合わせの時に「こういう本を読む人だから」って本を渡しました。それをもとに各自で人物を作ってきてくれましたね。田中麗奈さんはこの映画を観ても分からないかもしれませんがミステリー好きの子なんだということを本を通じて伝えました。カフェで本を読んでいるシーンの本もミステリーだったりします。 撮影中は、全体にシーンの前後を通常よりも少し長く撮りました。そういったところから即興で作っていくということをしましたが、よい結果になったと思います。

作品の見どころを。観ていて貴子たちは羨ましい時間の使い方だなあと思いました。

映画を観ている時間自体をゆっくりと過ごしてもらいたいなと思いますね。映画を観終わった後にゆったり過ごせたなという感覚を残したいと思います。映画の中の人が過ごした時間を一緒に過ごす、という感覚ですね。
映画館に行くという行為自体がそういうことかなと。今まであまり行ったことがなかった町に流れる2時間なりの時間を一緒に過ごしてみる、ということ。

監督ご自身のお話を伺いますが、映画監督になろうとしたきっかけは?

きっかけは14歳の時に「ふたり」という映画を観て、その時初めて映画を観て涙が出て、それがきっかけで作る側に廻りたいなと思いました。映画自体は小学校の低学年の頃から見ていたので、映画は身近にあるものでしたね。

>作る映画のテーマみたいなものはその頃からお持ちでしたか?

初めて映画を撮った時から、ひとりの女の子の気持ちの変化に焦点を当てたい、という気持ちがありましたね。自主映画と呼ばれるものから商業映画に移ってからは、東京、というものを映したいと思うようにもなりました。それもあってこの小説はぴったりでした。

今後の抱負をお願いします。

これからも東京というものに興味があるだろうし、持ち続けたいと思います。振り返った時に、ずっと東京を撮っているねという風になりたいです。

監督ご自身の“モットー”をお願いします。

映画を作っている時にこころがけていることですが「あわてない」ということ。「焦らない」じゃなくて「あわてない」ですね。それと、この道だって思って進むんですけど、道筋はこの道だけじゃないということも常に思い続けながら、自分が決めたその道を歩いていくことです。スタッフも出演者も違うことを考えている人もいるので、自分の選んだ道だけじゃないんだ、ということですね。

最後に当インタビューを読んでいるOKWaveユーザーにメッセージを願いします。

『森崎書店の日々』を観て、この映画自体が小さなきっかけになればいいなと思います。きっかけって自分が思っているより結構身近なところにあるのですけど、本をペラっとめくったそこに思いがけないきっかけがあると思うので、この映画自体も本を開くように小さなきっかけになればいいなと思います。

監督ご自身が気になっていることを「質問」してください。

みなさんは東京の中で一番好きな町はどこですか?
答えを聞いて次回作を考えようと思います(笑)。

Information

『森崎書店の日々』

2010年10月23日より、神保町シアター、シネセゾン渋谷他にて全国順次公開。

大人へと成長する貴子の小さな躓きとささやかな回復と希望。夏から冬へと移り変わる古書店“森崎書店”と古書の街、神保町の風景。都会の暮らしの中で抱く孤独とささやかな幸せ。主人公の貴子は失意と孤独の中で“森崎書店”というとある古書店に出会います。彼女はそこで様々な人とふれあうことで次第に回復し大人へと成長してゆきます。そして貴子を通して、季節の中でほんのり色づき変化していく“森崎書店”という古書店と神保町という町の物語も描き出します。

出演:菊池亜希子、松尾敏伸、奥村知史、吉沢悠、きたろう、岩松了、田中麗奈、内藤剛志
脚本・監督:日向朝子
配給:ファントム・フィルム
公式サイト:http://www.morisaki-syoten.com/

(C)2010千代田区/『森崎書店の日々』製作委員会

Profile

日向朝子

1978年、東京生まれ。
14歳の時に映画を作る人になろうと思い、日本大学芸術学部映画学科監督コースに進む。在学中に短編映画を作り始め、映画祭に入選したり落選したりする。
卒業後は1年間CMの制作を経験、その後はフリーランスで映画の脚本や演出を始める。
2003年、短編映画「Finder」でショートピース!仙台短篇映画祭審査員奨励賞を受賞。
同年、長編映画脚本「SEESAW」でサンダンス・NHK国際映像作家賞優秀賞を受賞。
短編映画も作り続ける。
2005年、映画「大停電の夜に」を舞台にしたフェイク・ドキュメンタリー「大停電の夜に ~ナイト・オン・クリスマス~」を監督。DVD発売される。同年、クリスマスイヴの小さな奇跡の一夜を描いた短編映画「OVERCOAT&MITTEN」(田中圭・美波主演)を脚本・監督。ネット配信される。
2006年、18人の監督が1日の出来事を24時間で撮るユニークな企画”One Day Movie シリーズ”に参加、バレンタインデーのウェイターの一日を追った短編映画「WAITER」(松尾敏伸・小山田サユリ主演)を脚本・監督。同シリーズはオムニバス映画「ハヴァ、ナイスデー」として渋谷ユーロスペースにて公開される。
同年、中編映画「Presents~合い鍵~」(角田光代原作・広末涼子・玉山鉄二主演)を脚本・監督。同作品は、渋谷シネクイントにて公開された。
2010年、初の長編映画「森崎書店の日々」を脚本・監督。

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