OKWAVE Starsは、ここでしか読めない、俳優・女優、映画監督、アーティストらへのインタビューと、彼らからの「質問」に「回答」できるOKWAVEの特別企画です。

Vol.844 監督・プロデューサー 遠藤隆(ドキュメンタリー映画『山懐に抱かれて』)

OKWAVE Stars Vol.844は24年間にわたる人気TVドキュメンタリーシリーズを映画化した『山懐に抱かれて』(2019年4月27日公開)の遠藤隆監督/プロデューサーへのインタビューをお送りします。

Q 吉塚家の皆さんを取材しようと思った最初の経緯をお聞かせください。

Aドキュメンタリー映画『山懐に抱かれて』遠藤隆僕は1989年に会社から派遣されてNYに半年駐在しました。そこでは当時の日米の農業問題を取材をしていました。帰国後も農業問題に関心を持っていて、ある時、山地(やまち)酪農という変わった酪農をやっている一家があると紹介されました。ある種理想的な、循環型農業をやっているとお聞きして、吉塚家のお父さんにお話を聞きに行きました。取材していくうちに子どもたちやお母さんら家族のことの方が気になって、段々とそちらへ関心がシフトしていきました。

Q 最初の取材での反応はいかがでしたか。

お父さんの迫力がすごかったです。ボロボロのプレハブ住宅に住んでいて、お父さんは今よりも目つきがずっと鋭かったです。お話を聞いて、帰ろうとした時に牛乳を出してくれて、それがすごく美味しかったのをよく覚えています。

Q 24年前の岩手県内の景気としては、どんな様子だったのでしょう。

地方にはバブルが遅くやってきたので、バブル崩壊も東京よりも遅かったです。ですので、初めて取材した時はバブル景気が続いていました。土地の値段が100倍になるような時代でした。

Q 吉塚家の変化を一番感じるのはどんなところでしょう。

A遠藤隆当初はお父さんが絶対権力者で、他の家族はお父さんの言うことを聞いていればいい、という感じでした。それが子どもたちも成長してくると発言もするようになりますし、それを受けて親もまた成長していきます。そんな家族の成長の姿が印象深いです。田野畑山地酪農牛乳の事業が幸いなことにうまくいったのでいまは普通に暮らせるようになりましたが、初めて取材した頃を知っているだけにその違いも感じられます。

Q その田野畑山地酪農牛乳の製品化の前後の様子をお聞かせください。

Aドキュメンタリー映画『山懐に抱かれて』遠藤隆94年に出会った時は、一家の年収は100万円しかないのに借金が2,000万円もあるという状況でした。95年の秋頃に、お父さんが言いだしたことか、僕が言い出したことか、今となっては分かりませんが、一家は夜逃げしないといけないくらいの事態に追い込まれていたので「牛乳の製品化をやって、ダメだったら山を降りればいい。やらないで諦めるよりはやった方が良い」ということになりました。それで映画の中に出てくる12月の研究会でお父さんが発表をして、そこからすごい勢いで形にしていきました。牛乳の生産の1回分のロットが200本なのが、当初は売り先が50本分しかありませんでした。売り先を探しましたし、番組で紹介したら、反響がものすごく大きくて、200本の注文を確保できたのがうれしかったです。

Q 山地酪農では、放牧される山地はどのような条件が必要なのでしょう。

Aドキュメンタリー映画『山懐に抱かれて』遠藤隆大学を卒業して3年のお父さんが10ヘクタールの山林を手に入れて山地酪農を始めました。ほとんどの木を切って、裸になった土地に1メートル間隔で芝を植えていくんです。それが数年経つと芝がびっしりと生え揃います。牛が食べても芽は残るので、牛が食べつくすと違うエリアに移って、牛が移った先の芝を食べつくす頃にまた芝が生え揃います。もちろん冬は芝が生えませんので、その間は牧草を与えます。日本の酪農家のほとんどは輸入した牧草等を与えています。山地酪農では100%自給であることが特徴です。

Q 山地酪農は家族代々、続けていけるものでしょうか。

A遠藤隆山地酪農の提唱者である猶原恭爾先生は「千年家構想」という言葉で、山地酪農を確立できると千年続けられると言っています。お父さんはそれを信じて、子どもたちにも継がせようとしています。ですが、長男の公太郎くんらは、千年家というものはやる人がいなければ続かないものだとお父さんに言っています。吉塚家だけでは続かないので、田野畑山地酪農牛乳の会社に一家以外の人も入れていかなければならない、と言って、一家以外から社員を採用しています。ちゃんとお金が稼げて生きがいを感じなければ千年家は続かないんだという考えには、お父さんには忸怩たる思いもあると思いますが、受け入れています。そうやっていかないと千年家は続かないだろうし、少しずつ形を変えていくのだろうと思います。

Q 吉塚家の酪農の土地はどんな気候なのでしょう。

A遠藤隆あの土地は海に近いとはいえ、本当に寒いですし、風は強いし、雪も降るので、生活するにはとても大変だと思います。
牛たちは「野生に還っている」という言い方をしています。野生化しているから危険ということではないです。雌牛は穏やかで近くにいても怖くありませんが、映像にもありますが、雄牛はやはり気性が荒い時があります。

Q 24年を経る中には3.11(東日本大震災)もありました。そのことでの変化はありましたか。

A遠藤隆福島の原発事故の影響で、一時期、岩手県内の土地でも放射性物質が検出される事象がありました。一家の土地よりも北の方でもありまたので、たまたま一家の土地は大丈夫だった、というだけでした。あの当時は怖かったです。元の生活に戻るにはやはり2、3年はかかったと思います。

Q お母さんのおおらかさや達観されている様子がすごいです。

A遠藤隆お母さんは小さな頃にご両親を亡くされて、貧しい中で暮らしてきたそうで、家族一緒に食事ができるだけで幸せだと言っていました。求めるものが高くなければ、豊かさをより感じられるのだろうなと思います。求めるものが大きければ、いくらお金があっても満足できないし、豊かな気持ちにもなれないのだと思います。お母さんは家族と一緒に食卓を囲んでいられるだけで豊かだと感じていらっしゃるので、僕もその考え方には大きく影響を受けました。

Q 家族の言い争いのシーンも映されていますが、今の家族の様子はいかがでしょう。

A遠藤隆「よくあんな家族の言い争いのシーンが撮れたな」と言われたことがありますが、あれよりひどいことは実際にはないと思います。僕もお父さんに「もっと子どもの言うことも聞いたら」と言ってしまって、言い争いになってしまったこともありますが、だからといってその後の取材を断られたこともありませんので、まっすぐな人なのだと思います。

Q 過去の映像の中で改めて印象的だと感じるものはありましたか。

A遠藤隆やはり家を建てたことが大きな変化で印象深いです。家が立つ前のプレハブの時代とは生活の様子がまったく違います。プレハブの時代は本当に大変だったと思いますが、童話のような夢のような感じがします。決して戻らないですが、そんな時代があったという記録が残せたと思います。

Q 24年分の映像を振り返って、一つの映画にまとめるにあたって、どんな方針でいましたか。

Aドキュメンタリー映画『山懐に抱かれて』遠藤隆タイトルを決めるのに難航しましたし、タイトルが内容を表していると思います。テレビ番組では「ガンコ親父と7人の子どもたち」というシリーズで放送してきました。映画化にあたってはタイトルを変えようという話になり、この『山懐に抱かれて』という言葉が出てきて、テーマもしっかり見えてきました。やはり自然の中で生きている家族の成長の記録なんだろうと思います。

Q 映画化について一家はどんな反応でしたか。

A遠藤隆僕自身は映画化にはすごくハードルを感じましたが、覚悟を決めて伝えたら、お父さんをはじめ、吉塚家の皆さんには喜んでもらえました。
テレビ岩手の開局50周年記念として映画化になりましたが、僕の中ではテレビと映画は別のものなので、話が出た時はすごく考えました。お客さんがお金を払って観に来てくれるのだろうかということや、映画館に足を運ぶ思い入れにお応えできるのか、ということなどいろいろ考えました。最終的にはいろんな人のバックアップもあってやると決めました。やはりタイトルが浮かんだ時に映画化が結晶されたように感じます。

Q 室井滋さんがナレーションを務めています。

A遠藤隆テレビ番組を室井さんが見てくださって、牛乳も取り寄せて飲んだら気に入られてずっと取っていらっしゃるとのことでした。そんなご縁でお願いしました。

Q 遠藤隆監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A遠藤隆僕たち自身が一泊二日で取材に行って、一家の茶の間で過ごさせていただいて取材してきました。観ている皆さんもそこにいる一員のように観ていただけたら嬉しいなと思います。一家のいろいろな感情の一端を一緒に感じ取ってもらえたらありがたいです。

Q遠藤隆監督からOKWAVEユーザーに質問!

名前皆さんは田野畑村に行ってみたいですか?

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■Information

『山懐に抱かれて』

ドキュメンタリー映画『山懐に抱かれて』2019年4月27日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

「みんなが幸せになる、おいしい牛乳をつくりたい」
山の牧場を切り拓く吉塚一家。
雨の日も雪の日も、泣いた日も笑った日も、
その歳月はいつも家族とともにありました。
美しくも厳しい岩手の自然を背景に綴る長編ドキュメンタリー

吉塚家のみなさん:吉塚 公雄 吉塚 登志子
浅野 都 吉塚 公太郎 吉塚 恭次 山崎 令子 吉塚 純平 吉塚 雄志 吉塚 壮太
吉塚 和夫 吉塚 淑

監督・プロデューサー:遠藤隆
構成・編集:佐藤幸一
ナレーション:室井滋

協力:日本テレビ系列 NNNドキュメント
製作著作:テレビ岩手
配給宣伝協力:ウッキー・プロダクション
テレビ岩手開局50周年記念作品

http://www.tvi.jp/yamafutokoro/

©テレビ岩手


■Profile

遠藤隆

遠藤隆(ドキュメンタリー映画『山懐に抱かれて』)1956年5月9日生まれ、東京都出身。
1981年3月国立岩手大学人文社会科学部卒業。同年4月にテレビ岩手に入社し、報道部に配属。1987年1月、NNNドキュメント’87「両手に力をください」でドキュメントデビュー。その後、様々なドキュメンタリー番組を手がけて数々の賞を受賞。1994年6月に吉塚さん一家の取材を開始。以後、他作品制作の傍ら、吉塚さん一家を継続して24年に渡り継続取材を行う。2007年に報道部長、2008年に報道局次長兼報道部長を経て、2011年3月には報道部長として東日本大震災の取材・放送指揮をとる。2012年に編成技術局長を経て、2016年6月に退職、契約社員シニアマネージャーとなる。2017年4月から契約社員として編成局エグゼクティブプロデューサー兼コンテンツ戦略室長を務め、現在に至る。